若手の離職予防や優秀な人材の獲得に、キレイでデザイン性の高いオフィスが意外に効果を発揮するようだ。
人事向けサービスを展開する調査会社アスマーク(東京都渋谷区)が、オフィス課題の解決を目指す清和ビジネス(東京都中央区)と共同で発表した調査「若手社員が好む環境・働き方」(2025年2月3日)によると、特に女性にかなり効果的だという。
いったい、どういうことか。調査担当者に聞いた。
男性に比べ女性は、「オフィス環境・雰囲気」を重視する人が2~3倍多い
アスマークと清和ビジネスの調査(2024年11月15日~24日)は、全国のオフィスで働く20~39歳の正社員男女390人が対象。
まず、転職を検討しているかを聞くと、20~30代の半数以上が転職を検討している。特に、男性では20代後半、女性では20代前半が「1年以内に転職したい」と答え、対策が急務であることがわかる【図表1】。
次に、新卒時に就職先を選ぶ際に重視した点を聞くと、ダントツ1位は「給与・待遇」だが、男女で差が見られたのは「オフィス環境・雰囲気」。男性に比べ女性は、20代、30代ともに「オフィス環境・雰囲気」を重視する人が2~3倍多かった【図表2】。
また、転職するとしたら就職先を選ぶ際に重視する点を聞くと、新卒時に比べ、「勤務時間・ワークライフバランス」「福利厚生」「人間関係」「オフィス環境・雰囲気」など働き方や働く環境を重視する回答が全体的に増えている。特に30代女性では顕著に高い【図表3】。
就職先(転職先)を選ぶ際に、プラスに働く要素(複数選択可)を聞いたのが【図表4】だ。1位は「テレワーク制度が整っている」で、2位は「オフィスがキレイ、おしゃれ」であること。ともに女性は男性の2倍近くに達する。
最後にどのような座席ルールで働きたいかを聞くと、1位は「固定席とフリースペース」を合わせたパターンだが、男性では自由に席を移動して選べる「フリーアドレス」を選択する人が目立った。一方、女性では「フリーアドレス」を選ぶ人は男性の半分以下で、ここでも男女差が際立つ結果となった【図表5】。
つまり、テレワーク制度などワークライフバランスの充実はもちろんのこと、キレイなオフィスといった職場環境の見た目も、特に女性に関しては新卒採用や離職防止にかなり効果を発揮するようだ。
日頃からキレイを好む女性は、オフィスの快適性に求める基準が高い
J‐CASTニュースBiz編集部は、アスマークの調査担当者に話を聞いた。
――【図表1】で、1年以内に転職したいという人が男性では20代後半がずば抜けて多いですが、女性では20代前半が多いのはなぜでしょうか。
担当者 この調査だけでは、はっきりとは言い難いのですが、【図表2】の新卒時に就職先選びで重視した点と、【図表3】の転職先選びで重視する点を比べると、新卒時に比べ、20代後半男性では給与・待遇がよい企業、20代前半女性ではテレワーク制度がある企業を転職先に求める人が増えています。
仮説ですが、新卒入社した会社は、将来的な昇給見込みや待遇については数年働いてみないと判断しづらい部分であること。逆に、テレワークなどの働き方の部分については少し働いてみただけでもわかる部分です。こういった差が男女の間で生まれているのではと考えられます。
――なるほど。男女差といえば、新卒時に就職先を選ぶ際に重視した点で、女性では「オフィス環境」が男性の2~2.5倍も多いです。やはり、女性の場合、面接などで会社を訪問した際、トイレなども含めてしっかりチェックするということでしょうか。
担当者 オフィスの環境や雰囲気については、年代を問わず男性よりも女性の方がおしゃれなオフィスを好む傾向が見られます。もちろん性別を問わずおしゃれ好きな方はいらっしゃいます。ですが、オフィスに限らず男性より女性のほうがキレイでおしゃれなモノを好む人が多いことが、新卒時の就職先選びにも表れているのかなと思います。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」によると、快適な職場はストレス低減や事業活動の活性化にもよい影響を及ぼすが、何を快適と感じるかは個人差があるとされています。日頃からキレイなものを好む女性のほうが、オフィスの快適性に求める基準が高いのかもしれませんね。
座席が自由な「フリーアドレス」のメリットとデメリット
――転職先を選ぶ際でも、ワークライフバランスや福利厚生、オフィス環境・雰囲気などの「働き方や働く環境」を重視する割合が、女性は男性の1.5倍も高いです。これは、単にキレイ好きという問題ではない感じを受けます。
担当者 女性の中でも20代よりも30代のほうが「働き方や働く環境」を重視する回答が多いです。結婚や出産などのライフサイクルの変化などにより、柔軟な働き方の必要性が高まってきていることが影響していると考えられます。
――ところで、オフィスの「座席ルール」で顕著な男女差が表れていることが興味深いです。20代の男性が自由に席を選べるフリーアドレスを希望する割合が、20代女性の2倍以上も高い理由は何でしょうか。
担当者 近年、フリーアドレスが導入されている一番のメリットは、さまざまな人と隣の席になる機会が持てることで、他部署を含めた社内コミュニケーションが活発になることと言われています。
一方で、私物の置き場の問題や、自席がないことで居場所がないと感じてしまいがちになる、毎朝空いている席を探すのが面倒、といったデメリットもあります。
女性でも20代前半ではフリーアドレスを希望する人が多い点を見ると、入社直後は社内の人脈を広げ、仕事の幅を広げる意味でも多くの人とコミュニケーションをとれるフリーアドレスに魅力を感じているのではないでしょうか。
一方、20代後半~30代女性は仕事と育児の両立などで忙しくなり、いろいろな人とコミュニケーションをとるよりも固定席で安定した人間関係を築きたい人が増えてくるのかもしれません。
優秀な人材への最後の一押しに、デザイン性が高いオフィスを
――保育所の迎えに早く帰らなくてはならないことも出てきますね。
担当者 そのとおりです。時短勤務で早く帰る際も、固定席であれば周囲の人が時短であることを理解しているので帰りやすいですが、事情を知らない別部署の人が隣の席だと気を遣う、といったことも生じてしまいます。
――今回の調査を踏まえ、企業側は若い世代の定着に向けてオフィス環境に関する限り、何を重視すればよいと考えますか。
担当者 新卒時・転職時ともに「給与・待遇」「業務内容」が重視されているのは変わらずですが、特に女性では年代が上がるにつれ「働き方や働く環境」を重視する傾向が強くなります。
せっかく採用した人材に長く働いてもらうためには、従業員満足度向上のための施策やコミュニケーションを円滑にするためのツール、オフィス環境なども含めた「働き方や働く環境」の整備が必要と言えるでしょう。
また、就職(転職)活動時に、「オフィスの印象によって会社のイメージがよくなった」と回答した人は全体の4割に上りました。「ここで働いてみたい」と思わせるには、キレイなオフィスのほうが、そうでないオフィスよりもいいに決まっています。
複数内定を取るような優秀な人材への最後の一押しとして、デザイン性を高くして、緑を配置するなど、工夫を凝らしたオフィス環境も効いてくるのではないかと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)