トランプ米大統領は2025年1月の就任以来、「高関税」で相手国に譲歩を迫る外交戦術を繰り広げている。目に見える成果を早期に上げ、支持層にアピールしたいトランプ氏の強硬姿勢を前に、メキシコ、カナダが早速、歩み寄りを余儀なくされた。貿易赤字を問題視し、国内製造業の復活を目指す「トランプ関税」だが、そもそも関税にはプラスもあるがマイナスもあり、思惑通りにはいかない。
関税は外国からの輸入品にかける税金で、その主な効果には(1)貿易赤字の解消(2)国内産業の保護(3)政府収入の確保――などがあるとされている。トランプ氏は貿易赤字を「悪」ととらえている。
国内産業の復活は最優先課題
「外国製品の流入が米国の産業を痛めつけ、雇用を奪っている」との考えから、高関税によって海外製品の流入を阻止し、競争力を失った米国内の製造業復活と雇用確保につなげようという狙いだ。工場の海外移転で失業者が増えた「ラストベルト」(さびついた工業地帯)と呼ばれる地域の有権者の支持を得て、再選を果たしたトランプ氏にとって貿易赤字の解消を通じた国内産業の復活は最優先の課題である。
しかし、関税分を転嫁した輸入品の価格が上がれば、米国の消費者の負担は増える。相手国の企業が輸出段階で、関税分だけ値下げするというケースは限定的とみられている。また、相手国に部品などの生産拠点を置く米製造業のコスト負担も増大する。加えて、報復措置で相手国から関税をかけられることも忘れてはならない。米国内でも「関税は米国民と企業が負担することになる」との批判が出ている。
世論調査に現れた米国民の疑問
インフレ抑制はトランプ氏の重要公約の一つだが、渡部恒雄・笹川平和財団上席フェローが「関税は輸入品の価格に転嫁され物価を上げる。物価高に不満を持ち、大統領選でバイデン支持からトランプ支持に乗り換えた有権者の期待を裏切ることになる」(「月刊リベラルタイム」3月号)と指摘するように、トランプ関税は公約とは矛盾するインフレ圧力になるとの見方が強い。
日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、ロイター通信と世論調査大手イプソスが2024年12月上旬に米国の成人4183人を対象に実施した世論調査では、「たとえ物価が上昇しても関税を引き上げることはよいことだ」との設問に対して、42%が「同意しない」と回答し、「同意する」の29%や、「わからない」の26%を大きく上回ったのは国民の警戒感の強さを示している。
また、関税によって貿易赤字を解消するという目標達成も心許ない。主として中国を標的として高関税を課した第1次トランプ政権時代(2017~2021年)、米国の貿易赤字を一貫して解消できなかったという事実を、トランプ氏も忘れているわけはないだろう。
「私にとって辞書の中で最も美しい言葉は、タリフ(関税)だ」。つまるところ、関税はディール(取引)をするうえでの「最強の切り札」、とトランプ氏は言いたいのかもしれないが。
(フリーライター 倉井建太)