情報サイト「ねとらぼ」が2024年8月、60歳以上の男性に好きなデジタルカメラのメーカーをアンケートで聞いた結果、1位はニコン、2位がOM SYSTEM/OLYMPUS(オリンパス)、3位がキヤノンだった。 かつてシニアのカメラ好きが愛用したのは一眼レフだったが、現在の主流はミラーレス一眼だ。現在、ミラーレス一眼の世界トップ3はキヤノン、ニコン、ソニーの日本メーカーだ。
このうち、プロカメラマン向けの旗艦モデルはキヤノン「EOS R1」、ニコン「Z9」、ソニー「α1Ⅱ」だ。いずれもホディだけで百万円前後と高価だが、世界一の高性能を競いあっている。
パリ五輪で報道カメラマンが愛したメーカーは
報道カメラマンの世界では、2016年のリオデジャネイロオリンピック(五輪)まではキヤノンとニコンの一眼レフが世界を二分していた。
後発のソニーは買収したミノルタの技術を取り入れてミラーレス一眼では先行。2021年の東京五輪で頭角を現し、ほぼすべてのカメラマンがミラーレス一眼に移行した2024年のパリ五輪ではソニー愛用者が増え、キヤノン、ニコンと三つ巴の戦いになった。
シニアのカメラ好きなら、そんな事情を知っており、本来なら「好きなカメラメーカー」の上位をキヤノン、ニコン、ソニーの3社が独占してもおかしくない。でも、そうならないのは、それなりの理由がある。
それは1位のニコン、2位のオリンパス(現OMデジタルソリューションズ)が1970年代から80年代にヒットした銀塩フィルム時代の一眼レフカメラをモチーフに、最新のミラーレス一眼を開発し、シニアたちの心をとらえているからだろう。
オリンパスは2021年、カメラなど映像事業をOMデジタルソリューションズに承継した。カメラに用いていた伝統の「オリンパス」のブランドネームも「OM SYSTEM」に変更した。本稿ではOMデジタルソリューションズとなる前のカメラメーカーとしてはオリンパスの名称を用いる。
オリンパスは往年の一眼レフ「OM-1」「OM-2」を連想させるミラーレス一眼「OM-D E-M5」を2012年に発売。懐かしいデザインとダイヤル操作がシニアの人気を呼んだ。オリンパスは同じく往年の名機の名前を冠したハーフサイズのミラーレス一眼「PEN-F」も2016年に発売している。
ニコンは往年の一眼レフデザインをミラーレスで再現
ニコンは2021年、往年の一眼レフ「FM2」のデザインを再現したミラーレス一眼「Zfc」を発売。シニアのカメラファンの郷愁を誘った。
ニコンZfc、オリンパスOM-DともAPS-Cサイズだが、実勢価格は10万円台とリーズナブル。とりわけシルバーボディーはニコンとオリンパスの一眼レフを連想させ、シニアにはたまらないだろう。
この人気を受け、ニコンは2023年にフルサイズのミラーレス一眼「Zf」を発売した。Zfc同様、往年のFM2をモチーフにしたデザインで、1970年代から1980年代に使用していた「Nikon」の旧ロゴを復活させるなど、細部にこだわった。
Zfはブラックボディーだけで実勢価格が30万円程度と高価だが、発売当初は生産が追い付かないほどの人気ぶりを示した。
これに対して、キヤノンには往年の一眼レフの名機「F-1」や「AE-1」を復刻したようなミラーレス一眼が見当たらない。シニアのカメラ好きの人気投票で、キヤノンがニコンやオリンパスの後塵を拝した理由は、この辺にあるのではないか。
(ジャーナリスト 岩城諒 )