「いまの仕事ではキャリアアップできない。転職しようかな」――。そう考えている社員を放置すれば、せっかく育成した意欲ある人材を流出させてしまう。それならば、ということで、社員の希望に沿って社内異動をさせる会社が増えている。
ある調査結果によると、「社内公募異動制度」を実際に利用したことがある人や興味がある人を合わせると、回答者の4割にのぼるという。具体的にどのような制度として設計されているのだろうか。
「社内FA制度」など3種類の選択肢
「社内公募異動制度」に関する調査を行ったのは、副業人材マッチングサービス「lotsful(ロッツフル)」。20~40歳代の男女会社員661人から回答を得た。
肯定派の4割の内訳は、「社内公募異動制度を利用したことがある」が6.7%、「社内公募異動制度を利用したことはないが応募したことはある」が7.6%と、経験者はごく少数。「社内公募異動制度を利用したことはないが興味がある」が14.5%、「(自社に)社内公募異動制度がないが、もしあれば利用したい」が11.3%だった。
一方、「(自社に)社内公募異動制度がないし、利用してみたいとも思わない」の28.9%と、「分からない」の23.1%を合わせると約6割にのぼり、明確な興味を示していない人が多数派となっている。
調査結果には「社内公募異動制度」とはどのようなものか、定義や例示がない。そこで都内企業で人事担当を務めるAさんに聞いてみた。
「まず、社員の『異動』には4つの種類があります。1つ目は従来の異動で、会社が一方的に指示命令するもの。会社には都合がよいのですが、社員の意向が反映されないためモチベーションが低下し、退職につながることもあります。そこで3種類の『公募』が新たに生み出されました」
公募の1つ目は「社員が自ら希望するポジションに応募する方法」。社員のモチベーション向上や、優秀な人材の流出防止に寄与する可能性がある。その一方で、選考に合格できず不満を募らせるリスクや、人材の取り合いによる部署間の摩擦が生じる可能性もある。
2つ目は「社内FA(フリーエージェント)制度」。社員が自身のスキルや希望を登録し、各部署がスカウトする。異動後のミスマッチを防ぎ、優秀な人材の発掘につながるが、人材層が厚い会社でないと機能しづらい。
3つ目は「キャリアマッチング制度」で、社員の志向や能力と各部署のニーズを、担当部署がマッチングする。ミスマッチの減少や適材適所の推進が期待できるが、調整コストがかかるうえマッチングの難易度も高い。社員も受け入れ部署も「期待外れ」と感じるリスクもある。