エコに厳しい時代なのに日本メーカーはハイパワーのガソリンエンジン車を販売している。国内で購入できる日本車としては、日産自動車の「GT-Rニスモ」が最高出力600馬力、トヨタ自動車の「レクサスIS500」が481馬力、「スープラ」が387馬力などとなっている。
いずれもハイブリッドシステムなどを持たないガソリンエンジンのクルマで、GT-RはV型6気筒3799cc、レクサスIS500はV型8気筒4968ccだ。当然、燃費は悪い。欧米などでは、これらを上回る排気量と最高出力のクルマが存在するが、世界的にダウンサイジングの時代に逆行していると言われれば、その通りだろう。
企業別平均燃料の貢献という仕組み
ここまで大排気量、高出力ではないが、「トヨタGRヤリス」、「ホンダシビックTYPE-R」、「スバルWRX S4」など、ガソリンエンジンだけのハイパワーカーは今も存在する。クルマ好きには理解できても、環境保護派は理解に苦しむことだろう。
実際、これらガソリンエンジンのハイパワーカーは存在が危ぶまれている。欧州連合(EU)などで「企業別平均燃費基準(CAFE)方式」と呼ばれる排ガス・燃費規制が強化されているからだ。
CAFE方式とは、その国や地域で販売するクルマの二酸化炭素(CO2)排出量に基準を設け、満たせないメーカーには罰金を科すというものだ。
「企業別平均燃費基準」という言葉からもわかるように、その自動車メーカーの個別のクルマではなく、販売する全車種の合計の平均燃費が問題となる。
トヨタの場合、「プリウス」などのハイブリッドカー、日産なら「リーフ」や「アリア」といった電気自動車(EV)が平均燃費の向上に貢献している。
日産が燃費の悪いGT-R、トヨタが同じくレクサスIS500やスープラを生産・販売できるのは、リーフやプリウスなどの優等生が平均燃費で高得点を稼いでいてくれるからだ。
さらに、近年は企業別平均燃費基準だけでなく、騒音をはじめとする環境規制が各国で厳しくなっている。このためGT-Rなどの生産・販売は年々難しくなっているのが現実だ。GT-Rの場合、現行モデルは2025年で受注が終了するとみられている。
企業別平均燃費や騒音などの環境規制を満たせば、ハイパワーカーはEVなどで存続が可能ということだ。
ハイパワーと環境性能の両立
日産が2023年秋の「ジャパンモビリティショー」で発表したEVの試作スポーツカー「日産ハイパーフォース」 はGT-Rの後継モデルと見られている。リアの丸形テールランプなど現行のGT-Rをほうふつとさせるデザインだった。
ホンダが次期「NS-X」を復活させるとすれば、間違いなくハイパワーEVだろう。EVとなれば最高出力600馬力と環境性能を両立できる。EVは航続距離や充電時間、電池の劣化など解決すべき課題は多いが、ハイパワーが可能でスポーツカーと相性がよい。次世代EVのハイパワーカーなら、クルマ好きと環境保護派の両者を納得させられるかもしれない。
(ジャーナリスト 岩城諒 )