日本の自動車メーカーが開発・生産するクルマでも、日本では売らず、海外だけで販売しているクルマは数多くある。言わば「海外市場専用の日本車」だ。中には人気の海外専用車を日本で発売することもある。
スズキが2025年1月30日に発表し、注文が殺到したため2月3日に受注を一時中止した「ジムニーノマド」がその代表例だ。従来の3ドアの「ジムニー」と「ジムニーシエラ」は日本で生産しているが、5ドアのジムニーはインドで生産、インドを中心に販売していた。これを日本向けに改良し、インドで生産した5ドア仕様をジムニーノマドとして日本に輸入するわけだ。
開発は日本、生産はインド
グローバルにビジネスを展開する日本の自動車メーカーは海外市場に合わせたクルマを開発・生産している。ジムニーはスズキの世界戦略車で、いずれも開発は日本だが、5ドアについては生産余力と価格競争力のあるインドで生産していた。
トヨタ自動車にも日本では発売せず、海外だけで販売するトヨタ車がいくつかある。代表例は欧州戦略車の「アイゴ」だ。アイゴは「ヤリス」よりも小さなコンパクトカーで、2005年デビューの初代はフランスのプジョー・シトロエングループ(当時、現ステランティス)と共同開発。チェコのトヨタ系の工場で生産した。
アイゴは現在、2022年発売の3代目となっているが、今もチェコ生産のトヨタの欧州戦略車だ。ロンドンなど欧州の街角で見かけるアイゴは小粋で、欧州メーカーが生産したホンモノの"欧州車"のように見える。
ドル箱の米国を優先する日産「ムラーノ」
そんなアイゴをトヨタはなぜ日本でも発売しないのか。それはトヨタ子会社のダイハツ工業がアイゴに匹敵する「トヨタパッソ」と「ダイハツブーン」を日本で生産し、両社が販売していたためだろう。日本ではダイハツが得意とする軽自動車が存在することも、トヨタがアイゴを見送る理由に違いない。
日産自動車は2024年10月、北米向けとなる4代目「ムラーノ」を発表。25年から米国とカナダで販売するが、日本への導入は未定だ。ムラーノのように、日本車でありながら、ドル箱の北米を優先する事例は多い。
日産はムラーノより大きな「アルマーダ」というフルサイズのSUVも米国で販売している。アルマーダは日本で生産しているが、国内では大きすぎるため、販売が見送られている。
アルマーダと同様にSUBARU(スバル)には北米専用の「アセント」がある。こちらも日本市場ではサイズが大きすぎるため、米国で生産・販売するだけで、日本へは投入していない。
スバルは北米市場向けに開発した「レガシィアウトバック」を日米で生産・販売してきたが、2025年3月末で日本仕様の受注を停止することになっている。日本では「レガシィツーリングワゴン」後継の「レヴォーグ」が人気で、米国サイズのアウトバックは販売が落ち込んでいるからだ。
このようにグローバルに展開する日本メーカーは北米や欧州、アジアなど海外市場に合った専用車を現地で生産・販売することが多い。このうち日本市場にも合うものはスズキジムニーノマドのように日本でも販売するが、トヨタアイゴのように諸般の事情で日本では手に入らない日本車もある。海外を訪れた際、知らない日本車を見かけるのはこのためだ。
(ジャーナリスト 岩城諒)