貸金庫10億円窃盗で明るみになった利用実態 口座に入金されなかった巨額キャッシュの不思議

全国の工務店を掲載し、最も多くの地域密着型工務店を紹介しています

   「かけがえのない財産を、安全にお預かりします」。三菱UFJ銀行が今もサイトでうたう貸金庫の宣伝文句は、もはやブラックジョークでしかない。元行員による貸金庫の顧客資産窃盗事件が発覚した。けた違いともいえる被害額とともに耳目を引くのが、その被害に占める10億円超とされる巨額の現金だ。

  • 不正資金の隠匿場所の一つ
    不正資金の隠匿場所の一つ
  • 不正資金の隠匿場所の一つ

タンス預金が際立って多い日本

   貸金庫は口座を持つ顧客向けにメガバンクや地方銀行、信用金庫などが提供するサービス。各金融機関は保管できる対象を例示している。三菱UFJ銀行は「公社債券、株券その他の有価証券」「預金通帳・証書、契約証書、権利書その他の重要書類」「貴金属、宝石その他の貴重品」を挙げる一方、保管できない例として規定に「危険物や変質、腐敗のおそれがある等、貸金庫の通常の用法による保管に適さないもの」と記す。「現金」は、そのいずれにも明示されていない。多くの金融機関も同様である。

   口座を持っている契約者なのだから、現金は銀行窓口やATM(現金自動受払機)で入金するだろう、と考えるのが自然だ。にもかかわらず、事件の舞台となった都内わずか2支店の貸金庫に、10億円以上もの現金が蓄えられていた――。なぜなのか。

   真っ先に浮かぶ理由が、脱税目的などの資産・所得隠しの疑いである。実際、国税庁は昨年発表した「査察の概要」で、不正資金の隠匿場所の一つとして「銀行の貸金庫」を挙げている。だが、10億もの現金のすべてが不正なカネとは考えにくい。

   国民性なのか、日本は自宅に現金を保管する「タンス預金」が際立って多いという。「もしもの時のため」という理由が大半だそうだが、口座の金利はスズメの涙、ATMも利用限度額があって、使い勝手が良くない。「タンス預金」感覚の延長線上として、自宅よりも安全性が高い「貸金庫預金」があっても不思議ではない。

   事件で図らずも、ベールに包まれていた貸金庫の利用実態の一端が明らかとなった。貸金庫に向ける国税当局の目が一段と厳しくなるのは確実だ。疑惑を招きかねない「貸金庫預金」は避けた方が無難かもしれない。

姉妹サイト