2025年2月3日に受注の一時中止を発表したスズキのオフロード4WD「ジムニーノマド」。わずか5日で約5万台の受注があったというが、予想をはるかに超える人気の秘密は何だったのか。
ホイールベースを伸ばして5ドア
スズキがノマドの受注発表をしたのは2025年1月30日。月間販売目標は1200台で、4月3日に発売する予定だった。 しかし、受付を始めると注文の勢いは強く、生産が追いつかないと判断して「受注を一時停止する」と発表する事態となった。これは全国に5ドアのジムニーを求めるファミリー層が多い証拠で、ある意味、予想通りだったともいえる。
ジムニーノマドは、2018年にデビューした4代目の現行ジムニーがベースとなっている。ジムニーシリーズには軽自動車(排気量660cc)のジムニーと、エンジンを1.5リッターに拡大して小型車とした「ジムニーシエラ」が存在する。
ところがジムニーシエラは上級車にもかかわらず、軽のジムニーと同じ3ドアで、4人乗りだが後席の居住性が小型車としては低かった。
これに対してジムニーノマドはジムニーシエラの全長とホイールベースを延長し、5ドアとした。ジムニーシエラと同様に4人乗りだが、ホイールベースを340ミリ延長し、リアドアを設けたことで後席の居住性は格段に向上した。
ホイールベース延長の効果は大きく、4人乗車時のラゲッジスペースも拡大。荷室床面の長さがジムニーシエラに比べ350ミリ伸びた。アウトドア用の荷物を積み、家族とキャンプなどに出かけるには都合がよい。
「プロの道具」を町乗りする
これまで3ドアのジムニーやジムニーシエラの購入をためらっていたファミリー層が、5ドアのジムニーノマドが登場したことで、飛びついたと考えられる。
ジムニーの最大のライバルだった三菱自動車工業の「パジェロミニ」や「パジェロジュニア」など、一連のパジェロシリーズが2021年までに日本市場から姿を消したことも、ジムニーに人気が集中する要因となっている。
ジムニー人気はデザイン性にある。4代目となる現行ジムニーは「専門家が愛用する『プロの道具』をデザインコンセプトに、機能に徹した飾らない潔さを追求した」と説明されている。
スズキは初代ジムニーから続く「軽量オフロード4WD」の伝統を守り、仕事や趣味でジムニーの良さがわかるコアな愛好者に向けて4代目を開発したようだ。
そんな「プロの道具」と呼ぶにふさわしいジムニーシリーズだが、大半のユーザーはオフロードではなく、町乗りで使用している。そんなユーザーの要望に応える形で登場したのがジムニーノマドだった。人気が殺到するのも無理はない。
発表直後に受注した約5万台のジムニーノマドがユーザーの元に届くには3年ほどかかるようだ。今回の受注停止を受け、スズキは全国のショッピングモールで予定していた先行展示会などのイベントも中止するという。スズキにとっては嬉しい誤算だが、せっかくのビジネスチャンスを失うことにもなった。
(ジャーナリスト 岩城諒 )