芸能人やタレントのマネジメントを行う芸能プロダクションの倒産や休廃業・解散が最多になったことが、東京商工リサーチが2025年1月25日に発表した「『芸能プロダクション』の倒産、休廃業・解散調査」でわかった。
所属タレントの独立や、ユーチューブをはじめとするネットでの活動などが逆風になっているが、「フジテレビ事件」に象徴されるテレビの凋落も大きいようだ。調査担当者に聞いた。
吉木りさ&壇蜜、藤原紀香&篠田麻里子の事務所が破産
東京商工リサーチの調査によると、芸能プロの倒産は2024年に22件(前年比57.1%増)に達し、2014年以降で最多を記録。また、休廃業・解散も171件(同64.4%増)と大幅に増え、倒産と休廃業・解散を合わせると2024年は193社が表舞台から退出した。
芸能プロは、テレビの隆盛に伴い成長をたどった。しかし、インターネット・SNSの普及で活動領域が広がり、移籍や独立をめぐる動きも活発化。2024年12月には公正取引委員会が、芸能人と芸能事務所の実態調査を発表、移籍や独立をめぐる事務所側の妨害行動などについて独占禁止法上の問題があると指摘、芸能プロとタレントの力関係にも変化の兆しがみえる。
2024年3月、吉木りささんや壇蜜さんが所属したフィット(東京都渋谷区)が破産。また、同12月には藤原紀香さんや篠田麻里子さんが所属したサムデイ(同港区)も破産した。コロナ禍で仕事が減少したほか、メディアの多様化で制作費が削減され、ギャラの値下がりなどで競争に拍車がかかっている。
タレントを見出して育て、マネジメントや仕事の斡旋で収入を得るシステムはタレントとの共存が成長のカギを握る。だが、最近はタレントの移籍や独立が相次ぎ、安定収益を確保できない芸能プロが増えている。
一方、タレントの不祥事で倒産に追い込まれるケースも最近、出始めている。有名俳優の個人事務所だった夕顔(同港区)が2018年4月、東京地裁から特別清算の開始決定を受けた。負債総額は数億円に及ぶ。
2025年1月23日、「フジテレビ事件」の渦中にあったタレント中居正広さんが芸能界からの引退を公表した。中居さんが代表を務める、のんびりなかい(同新宿区)はホームページで「残りのさまざまな手続き、業務が終わり次第、廃業する」とコメントした。
東京商工リサーチが2025年1月24日に発表した「『フジ・メディア・ホールディングスグループ』国内取引先調査」によると、取引先企業が約1万社(9654社)もある。
そのうち、芸能事務所や広告代理店などの「サービス業他」が2571社(26.6%)で最も多い。フジテレビは現在、CMを見送る企業が相次いでおり、多くの芸能事務所が影響を受ける可能性がある。
東京商工リサーチではこう結んでいる。
「中居さんが出演していたレギュラー番組の打ち切りや降板、スポンサーとの契約解除に伴う廃業手続きへの影響は不透明だ」
1年間で約13%の芸能事務所が表舞台から消えた
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当した東京商工リサーチ情報本部の内田峻平(うちだ・しゅんぺい)さんに話を聞いた。
――そもそもですが、東京商工リサーチが企業データとして把握している「芸能プロ」とは国内にどのくらい存在し、登記上、何を持って「芸能プロ」というのでしょうか。
内田峻平さん 弊社データベースの収録企業のうち、日本標準産業分類で抽出すると、「芸能プロ」は約1500件がヒットします。会社の商業登記簿の目的欄で「演技者、音楽家、タレントの育成、招聘及びマネジメント」などの記載がある企業を「芸能プロ」としています。
業務は、タレントの活動支援全般で、マネジメントから発掘・育成、PR、ギャラの交渉、最近ではコンプライアンス対応など、多岐に及びます。
――約1500社のうち193社というと、1年間で約13%も表舞台から消えたわけですが、これほど芸能プロの倒産や休廃業・解散が多い理由はズバリ、何が一番大きいですか。メディアとしてのテレビの凋落でしょうか。すでに2021年に広告費ではテレビはインターネットに抜かれており、企業もテレビ一強からSNSを使っての宣伝広告にシフトしている状況ですが。
内田峻平さん テレビの凋落でメディアが多様化したことに加え、コロナ禍で仕事が減少したり、制作費が削減されたりして収入減となって経営を直撃した芸能プロが、倒産や休廃業・解散に追い込まれたとみています。
――リポートにある芸能プロ「フィット」「サムデイ」「夕顔」の破綻理由を簡潔に説明してください。
内田峻平さん 「フィット」は同業者との競争が激化し、給料の未払いなどが報じられていました。「サムデイ」はコロナ禍で経営環境が悪化し、売上が悪化していました。
「夕顔」は有名俳優の個人事務所でしたが、俳優が未成年(女子高生)との飲酒などが問題になり、活動休止に追い込まれたうえに、損害賠償などを抱えて解散後に特別清算を申請、開始決定を受けました。
YouTubeチャンネル登録者数400万人超えの芸能人も
――リポートでは、「インターネット・SNSでの活動領域が広がり、移籍や独立をめぐる動きが活発になった」とありますが、具体的にはどういうことを指すのでしょうか。
たとえば、吉本興業を退所したオレンタルラジオの藤森慎吾さん、旧ジャニーズ事務所を退所した手越祐也さんらのように、自分のYouTubeチャンネルを持って芸能プロの手助けがなくても活躍できるようになったということでしょか。
内田峻平さん その通りです。従来はテレビや映画、舞台、ラジオなどが主な活動範囲でしたが、現在はYouTubeや動画配信サービスなどの台頭で活動領域が広がっています。事務所の経営方針とタレントの思惑、価値観に相違が生じ、移籍や独立するケースが増えています。
活動範囲が広がったことで、芸能プロの手助けがなくても、テレビや映画以外に新たな舞台でこれまでの知名度を活かした活動が可能なっています。YouTubeではチャンネル登録者数が400万人を超える芸能人もおり、移籍や独立が増えていると考えます。
――今回の倒産リポートで不思議なのは、従来の倒産記事なら必ずある負債額の記載がないことです。これは、芸能プロの倒産では、負債額はあまり関係なく、有力タレントが事務所からいなくなった段階で経営的にはアウトだからということでしょうか。
内田峻平さん 芸能プロの大手はほんの一握りで、大半は年間売上高が数億円の小・零細規模です。負債総額も大半は1億円未満ですので、今回は負債より件数に着目してまとめました。
芸能プロに所属するメリットを、改めて提示できるかがカギ
――今後、芸能プロが生き残るためには、どんな改革が大切だと考えますか。
内田峻平さん 所属するタレントに対して、芸能プロに所属するメリットを改めて提示できるかが大切と考えます。
昨年(2024年)12月に公正取引委員会が発表した芸能事務所の実態調査によると、芸能人との契約をすべて口頭で行っている事務所が全体の2割を超えたほか、契約内容を明示的に説明していない事務所も約1割ありました。
こうしたギャラの透明性はもちろん、テレビだけでなく、インターネット・SNSへの対応も求められています。タレントが芸能プロを信頼して、多岐にわたる活躍ができるようになれば、生き残ることができるでしょう。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)