現在と将来のどちらを優先するか、自分の価値判断で考えよう
――若い世代がもっと年金に信頼を寄せるようになるには何が一番大切と考えますか。また、今回のリポートで特に強調しておきたいことがありますか。
前田和孝さん いたずらに世代間対立を煽(あお)らないことが大切だと思います。
公的年金が保険である以上、老齢や障害などのリスクに社会全体で備えるためのものであり、世代間の金銭的な損得のみを基準とすることは適当ではないと考えます。年金は健康保険と異なり、支払いから給付を受けるまでの時間軸が長く、恩恵をすぐに実感しにくい点が不信感の一因になっているように思います。
現在の生活が苦しいため、保険料を下げるというのは選択肢の1つではありますが、その分将来の給付水準も下がることになります。そして、少子高齢化という人口構造が存在する限りは、年金による高齢者への社会的扶養の仕組みが家族間による私的扶養に取って代わるだけの可能性もあります。
私的扶養が可能な高所得世帯は問題なくても、終身にわたって年金が受け取れる長生きリスクに対応する機能や、所得再分配機能が失われれば、仕送り費用の増加や、高齢期の生活資金の枯渇に直面する人が出てくることも考えられます。現在と将来のどちらを優先するかは個々人の価値判断です。
ただ、想定以上に長生きすることで老後のために蓄えた資金が足りなくなるリスクは顕在化してから対応するのでは遅く、こうしたことも踏まえたうえで年金制度の将来を考える必要があります。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
前田 和孝(まえだ・かずたか)
明治安田総合研究所経済調査部エコノミスト(主任研究員)
2012年慶應義塾大学商学部卒業後、証券会社、商社を経て、2020年より現職。専門分野はマクロ経済動向の分析(日本、米国)、社会保障政策・労働市場の分析、原油相場など国際商品市況の分析など。