高齢者の定義、「70歳以上」引き上げ論に不安はないのか?
――気になるのは、現在「65歳以上」とされる高齢者の定義を「70歳以上」に引き上げようとする議論が、経済財政諮問会議で経団連の十倉雅和会長などから上がっていることです。これは将来、年金支給額を減らすとか、支給時期を後ろにずらす布石ではないのかとの疑念が若い世代から出ていますが、どう考えていますか。
前田和孝さん 年金制度には、保険料負担の範囲内で給付水準を調整・目減りさせる仕組みであるマクロ経済スライドが導入されています。そのときの社会情勢(現役世代の人口減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。
支給開始年齢の引き上げも同じく給付額を減らすものですが、マクロ経済スライドは現受給者にも影響が及ぶ一方で、支給開始年齢の引き上げは将来世代のみ給付額が減るという違いがあります。
マクロ経済スライドがある日本では、世代間の不公平を生み、合理性を欠く支給開始年齢の引き上げは選択されないとみています。また、年金は60~75歳のいずれのタイミングでも年金が受給できる「受給開始年齢選択制」を採用しています。65歳より早く受給する場合には月々の年金が減額されるという点には注意が必要ですが、受給開始年齢を柔軟に選択できる仕組みは維持されると考えます。
――つまり、高齢者の定義が変わっても安心していいということですね。ところで、財政検証の「過去30年投影パターン」では、実質賃金上昇率をプラス0.5%として試算しています。しかし、実質賃金は2024年の6月と7月と11月にプラスになった以外は2022年4月以降現在に至るまで、ずっとマイナスです。かなり甘い試算だと思いますが、大丈夫でしょうか。
前田和孝さん 「過去30年投影ケース」の実質賃金上昇率の前提が2024年度~2033年度まではマイナス0.1%~プラス0.2%、2034年度以降はプラス0.5%で置かれています。リポートにも記載させていただきましたが、2001~2022年度平均がマイナス0.3%ですから、甘いのは否めません。
ただ、ここ数年で賃上げの機運が高まっており、今後は高い賃上げ率が定着する可能性もありますから、非現実的とまでは言い切れないとも思います。