「老後資金2000万円不足問題」の残念な結果
J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめた前田和孝さんに話を聞いた。
――若者の年金不安の1つに、「老後資金2000万円不足問題」があると思います。2019年に金融庁の審議会が「高齢社会における資産形成管理」という報告書の中で、高齢無職夫婦の場合、公的年金中心の収入だけでは毎月5万円以上の赤字になるとして、今後30年の人生では貯蓄を2000万円近く取り崩す必要があると提言したのがきっかけです。
その後さらに、2024年5月にはテレビの報道番組が「最近の物価高により、2000万円ではなく4000万円必要になる」という試算を発表、再び「老後資金問題」が注目を浴びました。こうした問題についてはどう考えていますか。
前田和孝さん 「平均的な高齢夫婦無職世帯の毎月の赤字額が約5万円で、ここから30年間生活をするには約2000万円不足する」という点が独り歩きしてしまったのは残念に思います。同じ統計でこうした世帯の平均的な貯蓄額は2484万円あり、貯蓄を取り崩していけば不足分を補って生活をすることができます。
それでも「人生100年時代」に備えてしっかり資産形成や管理をしていきましょうというのが報告書の内容だっただけに、ただ不安を煽(あお)るような結果になってしまったように思います。
――財政検証では、若い世代が将来受け取る年金は年配世代より多くなりますが、男女格差がある試算が出ていますね。「過去30年投影パターン」では、現在20歳の男性が65歳時点で受け取る年金の平均は15.5万円ですが、20歳の女性では11.6万円と約4万円もの開きがあります。
この男女格差についてはどう考えますか。また、格差が生じないようにするため、若い女性たちへのアドバイスをお願いします。
前田和孝さん 年金額の男女格差の理由の1つが厚生年金の加入期間です。財政検証の「過去30年投影ケース」における現在20歳の人の「現役時代の経歴類型」を見ると、厚生年金の被保険者期間20年以上の割合が男性の88.8%に対し、女性は74.0%との見通しになっています。
格差を解消するためには、女性にできるだけ厚生年金に長く加入するような働き方を選択してもらうことが重要になります。これは、政府が厚生年金の加入要件の適用拡大を進めている理由の1つでもあります。もっとも、女性の厚生年金加入期間が短い背景には、出産や育児などの負担が女性に偏っているなどの問題もあります。
厚生年金の額は収入に応じて決まりますから、柔軟な働き方の整備などを通じて、女性が出産や育児のタイミングで離職したり、正規雇用から非正規雇用へ移らざるを得なかったりするケースを解消していくことが社会に求められます。