LINEヤフーが2024年12月にリモートワーク制度を改訂し、2025年4月からITエンジニアなどが所属する開発部門に「月1回の出社日」を設けると発表した。これには「フルリモートOKを前提に地方に移住した社員もいるのに」と反発の声があがった。
会社は「コミュニケーションの質を強化する」必要性を強調するが、実はリモートワーク中には「従業員のコンプライアンス違反が見抜けないから」という説もある。コンプライアンス違反とは、どういうことなのか。都内IT企業の総務担当者に聞いた。
総務担当「会社にメリットあるかもしれないが...」
「デイリー新潮」は2024年12月24日付け「なぜIT企業は"フルリモートから撤退"するのか?」の中で、衝撃的なリモートワークの例を示している。
「契約先の企業に派遣されフルリモートでシステムのメンテナンスを担当するシステムエンジニアが、会社の経費を不正に使用して高度な知識を持つ大学生に『下請け』を依頼し、自分はサボっている」
これはあくまでもITジャーナリスト・井上トシユキ氏の取材に基づく想定例のようだが、実際にこのようなケースは起こりうるのだろうか。都内IT企業で総務を担当するAさんに話を聞いてみた。
「不正会計の問題は別として、成果主義やアウトプット重視の観点から好意的に見れば、社員が自分の給与で業務の一部をアルバイトに委託しながら、自分は別の業務で成果を出しているのであれば、必ずしも悪いこととは言えないのかもしれませんね。むしろ、トータルで会社にメリットがあるケースがあるかもしれませんし、このような形態こそ働き方の新しい可能性じゃないか、と評価する意見が出るのも理解できます」
しかし、この例には致命的な問題があるという。
「一番の問題は、社員が担当する業務がクライアントからの受託案件であることです。この手の業務は、たいがい契約書で『再委託』を禁止されていますので、アルバイトへの発注は契約違反を犯していることになります。会社としては大きな信用問題に関わりますので、絶対に許すことはできない行為です」
「服務規律違反」で懲戒処分にできる可能性も
それでは、社員の担当業務がクライアントからの受託案件でなければ、問題にならないのだろうか。Aさんは首を横に振る。
「最も重大なリスクは、セキュリティです。IT企業ではどんなシステムでも、顧客情報など機密性の高い情報を取り扱うものです。アルバイトにこれらの情報へアクセスさせることで、情報漏洩のリスクが高まります」
こうした行為は、会社のセキュリティポリシーや内部規定に違反し、万一問題が発生したときには企業全体の信用を毀損しかねない。Aさんは「IT企業に勤めるエンジニアなら、抵抗感が相当あるはずでしょうけど」と付け加える。
また、会社に無断でアルバイトに自分の業務をやらせていることが発覚した場合、実害の有無にかかわらず「就業規則違反で懲戒処分にできる可能性が高い」という。
厚生労働省のモデル就業規則では、服務規律として「労働者は、職務上の責任を自覚し、誠実に職務を遂行するとともに、会社の指示命令に従い、職務能率の向上及び職場秩序の維持に努めなければならない」と規定している。
Aさんは「これは、社員が自らの責任で業務を遂行することを前提としていると解釈でき、会社に無断で第三者に委託することは、『誠実さを欠く行為』と解釈される可能性が高い」と指摘する。
また、「会社の指示命令に従い」「職務能率の向上及び職場秩序の維持」といった規定にも違反していると問題視されるかもしれない。
加えて、就業時間中にサボって仕事以外のことをしていること自体が、遵守事項として規定される「勤務中は職務に専念し、正当な理由なく勤務場所を離れないこと」などに違反するおそれがあるという。
リスクを想定していない管理職が問題
このほか、アウトプットの品質も懸念される。アルバイトが行った業務の質が基準を満たしていない場合、結果として会社が被害を被るおそれがあるというものだが、
「社員が最終確認を行い、責任を持つ形で進めるのであればリスクは軽減できるので、一概にはいえないかもしれませんね」
とAさん。「そして、本当に悩ましいのは、これらの問題がリモートワークを禁止しさえすれば解決するものではないことだ」と警鐘を鳴らす。オフィスに出社している場合でも、社員がアルバイトに業務を委託することは技術的に可能だからだ。
「出社している方が『事情聴取』しやすいという見方もありますが、それだけの理由で出社させるなんて本末転倒でしょう。真面目に働いている従業員のモチベーションが下がります。問題は、なぜそのようなことが悪いのか、どのようなリスクがあるのか、具体的に理解せず『ありえない』で済ませている管理職がいることでしょう」
Aさんは、管理職は部下に対し、具体的な例をあげながら「このようなことをするとリスクがあるから絶対にやめること」と伝え、「万一の場合には懲戒処分の可能性があること」などを伝えるのが大切だと指摘する。