開幕が2025年4月13日に迫る大阪・関西万博では、外国の参加国や民間企業以外にも、主催者の日本国際博覧会協会(万博協会)が設けたパビリオンもお目見えする。「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマを訴えるために、生物学者や映画監督など著名人8人にプロデュースを依頼した「シグニチャーパビリオン」だ。
24年12月20日に行われた報道公開では、万博会場の中心部で建設が進む8館のうち、生物学者の福岡伸一氏がプロデュースする「いのち動的平衡館」が公開された。福岡氏の生命哲学のキーワードで、絶えず動きながらバランスを取っている状態を指す「動的平衡」のコンセプトを、「クラスラ」と呼ばれる装置を通じて表現する。「生命は有限であるからこそ、輝く」ことも伝えたいといい、「このパビリオンの外に出て大阪の青い空を見上げていただくと、死ぬことも怖くなくなる」とアピールした。
「ひとつの情報を押し付けるということは、ひとつもしていない。全部問いかけだ」
「シグニチャーパビリオン」全体に関わっている、テーマ事業ディレクターの澤田裕二氏によると、8館に共通しているのが、「いのち」というテーマをめぐって「意見の違いを含めて、来た人どうしが会話をして、理解を深めていく」点だ。「ひとつの情報を押し付けるということは、ひとつもしていない。全部問いかけだ」と強調している。
「いのち動的平衡館」のテーマは「いのちを知る」。内部には1本も柱がないのが特徴だ。細胞が自律的に形を作っていることを念頭に置いたという。目玉の「クラスラ」は直径10メートル・全周30メートルある。約32万個のLED電球による光の粒で、細胞分裂や「多様ないのちの姿」を表現。福岡氏によると「生命の38億年の旅路を見ていただく」という。「クラスラ」の名称は、細胞の骨格を構成するたんぱく質、「クラスリン」にちなんだ。
福岡氏は展示の狙いを次のように話した。
「生命は弱肉強食、優勝劣敗と言われるが、実はそうではなくて、利他的に共生の進化の歴史として成り立っていることを知っていただく。人間だけが利己的にふるまい、共生を忘れている。これが環境問題を悪化させているので、そういった気づきを得ていただいて、行動変容に結び付く。それから自分の命というものをどう考えるか、ということについても考えていただきたい」