「かかりつけ医」倒産が最多 コロナ禍で患者に見放された「サービス力」ない診療所が浮き彫りに

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   かかりつけ医として地域を支える「診療所」や「歯科医院」など医療機関の倒産・休廃業が過去最多に達している。

   帝国データバンクが2025年1月22日に発表した「医療機関の倒産・休廃業動向調査(2024年)」でわかった。

   いったいなぜ医療機関が破綻するのか。今後はどうなるのか。調査担当者に聞いた。

  • かかりつけ医の能力が問われている(写真はイメージ)
    かかりつけ医の能力が問われている(写真はイメージ)
  • (図表)医療機関の倒産件数の推移(帝国データバンクの作成」)
    (図表)医療機関の倒産件数の推移(帝国データバンクの作成」)
  • かかりつけ医の能力が問われている(写真はイメージ)
  • (図表)医療機関の倒産件数の推移(帝国データバンクの作成」)

診療所経営者の高齢化進み、「70歳代以上」が過半数

   帝国データバンクの調査によると、2024年の医療機関(病院・診療所・歯科医院を経営する事業者)の倒産(負債1000万円以上)は64件となり、2009年(52件)を大きく上回って過去最多を更新した【図表】。

   そのうち「病院」が6件、「診療所」が31件、「歯科医院」が27件で、「診療所」と「歯科医院」が過去最多を更新して全体を押し上げたかたちだ。

   背景には、新型コロナの影響がある。コロナ禍では、感染回避のため通院を控える(コロナ以外の)受診者が続出。また、ワクチン接種を機に施設・設備機器やサービス面を考慮し、かかりつけ医を見直す受診者が増えた。このため、収入が減少したり受診者が戻らなかったりした施設が増加したとみられる。

   また、コロナ関連補助金の削減、資材価格高騰に伴う材料費(医薬品や検査キットなど)をはじめ、設備機器費の増大、人材確保・維持のための賃上げや、コロナ関連融資の返済開始などの負担も増した。収入減少と支出増加が同時に進行したことで、資金繰りに窮して事業継続を断念する事業者が増加した。

   一方、2024年に休業・廃業・解散が判明した医療機関は722件となり、こちらも過去最多を更新した。10年前(2014年)と比べて2.1倍、20年前(2004年)と比べて5.6倍に増える勢いだ。そのうち「病院」が17件、「診療所」が587件、「歯科医院」が118件となり、「診療所」と「歯科医院」が過去最多を更新した。

   休業・廃業・解散が急増する最大の要因は、全体の81.3%(587件)を占める「診療所」の経営者の深刻な高齢化にある。帝国データバンクが全国の診療所の経営者(年齢判明分の1万836人)の年齢分布を調べると、70歳以上の経営者が全体の54.6%と過半数を占めた。「歯科医院」(70歳以上の経営者は25.6%)と比べてもいかに深刻かが分かる。

   また、日本医師会の「医業承継実態調査」(2020年)によると、診療所の50.8%が「現段階で後継者候補はいない」と回答するなど、今後、高齢化がさらに進むことで、廃業に追い込まれる「診療所」が年々増え続けることが予想される。

   さらに、施設数に目を向けると(2024年6月時点、厚生労働省データ)、2014年以降の10年間で「病院」が438施設減少、「歯科医院」が2116施設減少しているのに対し、「診療所」は4594施設も増加しており、競争も熾烈だ。

コロナ禍で増えた「かかりつけ医」を見直す動き

   J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった帝国データバンク情報統括部情報取材課課長の阿部成伸さんに話を聞いた。

――医療機関の倒産が過去最多に達した理由は、ズバリ何でしょうか。コロナ禍のなか、かかりつけ医を見直す動きがあったと指摘していますが、具体的にはどういうことですか。

阿部成伸さん 倒産が最多となった背景は複合的です。「コロナ補助金の削減」「ゼロゼロ融資の返済開始」「物価高(材料費や機器価格の高騰)」「賃上げ」「受診者の選別意識の高まり」「経営者の高齢化・後継者難」。これらが同時進行しているためです。

取材の過程で病院や診療所と取引している複数の関係者の方から「アフターコロナになっても患者が戻らないクリニックが多い印象」という話を耳にして、それぞれなぜそう思うのか、理由を聞きました。すると、こんな声が複数上がってきました。

「コロナ禍でいつも通っている施設でワクチンを打とうと思ったが、あっさり断られてしまった」「行ったものの対応が雑だった」などの理由で、かかりつけ医のイメージがダウン。また、「仕方なく違う施設で受診したところ、とても良い対応だったので、アフターコロナではそちらに通うようになった」など、水面下でかかりつけ医を見直した人が一定数生じたというのです。

さらに「結果的に患者が増えたところ(評判が上がったところ)と、患者が減ったところ(評判が下がったところ)で二極化した」という趣旨の話をする方もいました。

実は、コロナ禍で私自身が全く同じ経験(かかりつけ医の見直し)をしたので、すごく説得力がありました。データで示せない話なのですが、おそらく同じ思いをされた方は結構いらっしゃるのではないかと思います。

独立開業医が、収益性の高いエリアで争奪戦を開始

――なるほど。ところで全体の倒産件数の大半を診療所と歯科医院が占めています。やはり、両方とも施設数が多い過当競争が大きな理由の1つでしょうか。

阿部成伸さん 病院(組織的な構造)と違って診療所と歯科医院の多くは先生とその奥さまや少数のスタッフで経営されているような小さな事業者が大半です。病院を「会社」と例えるならば、診療所や歯科医院は「個人経営者」というイメージです。

倒産しやすい事業者の傾向としては、どうしても事業規模の小さいところ、資金力の弱いところが多くなりますし、同業者が多ければその分、競争も激しくなりますので、診療所と歯科医院の倒産が増加しやすいわけです。

――実は、私自身のかかりつけ医もかなり高齢の方で、医療機関専門のM&A(企業の買収合併)コンサル会社に後継者選びを頼んでいますが、うまくいかないようです。診療所の後継問題はどのように解決すればよいと考えていますか。

阿部成伸さん 特に診療所や歯科医院は、病院と違って「先生」に患者さんが付くと思います。人気商売ということです。

そういう意味ではコンサルが連れてきた、「部外者」では、医師として優秀であってもそれまで定着していた患者さんを引き留めることはなかなか難しい。それこそ患者さんはかかりつけ医の見直しをされるかもしれません。

前経営者の思いや方針、地域性などをしっかり理解し、全てを新しくするのではなく、残すべきことをしっかり引き継ぐ気持ちがなければ難しいと考えます。

――その一方で、この10年間で病院や歯科医院の施設数が減少しているのに、診療所の数だけが増加し、さらに競争に拍車をかけていることが不思議です。その理由はなんでしょうか。

阿部成伸さん 悪い言い方になるかもしれませんが、医療機関を経営するうえで収益性の高いエリアとそうでないエリアがあるかと思います。たとえば高齢化が進むエリアでは患者さんは増えるかもしれませんが、利益率は低下する傾向があるのではないでしょうか。

そういった収益性なども踏まえて、エリアを選定して施設を増やしている(M&Aを含む)事業者がいることや、病院に勤務していた医師が独立するケースなどが要因になっているのではないでしょうか。

時代の変化や働き方の変化の中で「自分の時間を確保したい」「決まった時間の中で働きたい」という考えを強く持つ勤務医は増えていると思います。独立して経営者となることで、やりがいだけでなく、金銭的、時間的に余裕を持てる暮らしを目指して独立開業される方は多いと思います。

どんなに優秀な医師でも、最終的に「サービス力」が勝負

――今後、医療機関の倒産、休廃業・解散はもっと進むでしょうか。また、調査担当者として、この問題を解決して、国民がよりよい医療サービスを受けられるようにするにはどうしたらよいと考えますか。

阿部成伸さん 時間の経過とともに倒産、休廃業・解散は増え続けると考えます。特に経営者の高齢化を理由とした診療所の廃業はすさまじい勢いで増えると考えます。

国が主導し、経営状況や規模、後継者の有無などを考慮したうえで、段階的に各地域の診療所や歯科医院の機能を統合させるなどして、一定の規模・信用を備えた施設を将来の人口動態などを踏まえて設置していければ理想的ではないでしょうか。現在政府が進めている「中堅企業政策」に似たイメージです。

――今回の調査で特に指摘しておきたいことがありますか。

阿部成伸さん 医療機関に求められるのは最終的には「サービス力」だと考えます。どんなに優秀な医師がいて、最先端の機器が揃っていても患者さんが納得、満足する対応ができなければ、患者さんは離れていきます。
また、経営者は患者さんだけでなくそこで働くスタッフさんにも満足してもらわなければ良いサービスは提供できませんし、スタッフも離れていきます。こうした広い視野で現状を見直して、改善実行できる経営者がいる施設が生き残っていくのではないでしょうか。

また、繰り返しになりますが、今後は診療所の廃業件数増加が年を追うごとに深刻化していきます。同時にM&Aの動きも一気に加速し、その過程でいろいろなトラブルが発生することも想定されます。何事にも慎重な判断・行動が求められます。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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