ネット上での誤・偽情報が問題になる中、総務省は2025年1月22日、官民連携のリテラシー向上プロジェクト「デジタルポジティブアクション」を立ち上げたと発表した。
メタやX、グーグル、LINEヤフーといったプラットフォーム事業者や、携帯電話会社、業界団体など計19の会社・団体が参加。事業者間で情報交換できる場をつくり、偽・誤情報対策で連携を深めていきたい考えだ。
アテンションエコノミーに対応しようとしても「いたちごっこ」「モグラ叩き」
プロジェクトは、総務省の有識者会議「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」で「総合的なICTリテラシー対策」が提言されたことを受けてスタート。「世代に応じた多様な普及啓発」「SNS・デジタルサービスにおけるサービス設計上の工夫」「信頼性の高い情報にかかる表示上の工夫」の3つ方向性を掲げており、特に後ろ2項目は、事業者の「自主的な」工夫をうたっている。
プロジェクト推進会合の会長を務める憲法学者の山本龍彦・慶応大大学院教授は、有害情報の流通や拡散には「刺激的で煽情的な情報が経済的な利益を生み、拡散されやすい傾向がある」と、いわゆる「アテンションエコノミー」の問題を指摘する一方で、「そうしたビジネスモデルや、それが作り出しているカルチャーとも複雑に関連しており、具体的な対応を義務づけたとしても、ある種のいたちごっこ、あるいはモグラ叩きのようになってしまう恐れもある」とも説明。
さらに、書き込みを削除させることには抑制的な見方を示し、意識の変容が必要だとした。
「表現を削除させるような規制的な政策は、憲法が保障する表現の自由を過度に制約する恐れもあり、民主主義を守るための政策が、かえって民主主義を危険にさらす可能性も否定できない」
「もちろん具体的な犠牲者や被害が認められるものなどについては一定の制度的対応の検討が必要だとしても、現在の情報空間の諸課題を根本的に解決していくためには、何よりも私たちの意識自体が大きく変容しなければならない。それにはリテラシーの向上が不可欠だ」
即効性限られるため「ある程度息長くやっていくのが重要」
リテラシーの向上を通じて得られる効果について、
「私たち1人1人が偽・誤情報等への耐性を獲得できるだけではなく、アテンションさえ得られれば何をしても良いという考え方それ自体に懐疑的な視点が生まれ、自由や民主主義をより良いものにする新しいカルチャーが作られるのではないかと期待している」
と述べた。
具体的な活動としては、(1)官民の取組を集約したウェブサイトの開設(2)多様な企業・団体によるセミナーやシンポジウム開催、普及啓発教材の作成(3)各種広告媒体を活用した国民向け広報活動、の3つを予定している。
総務省情報流通振興課の吉田弘毅企画官によると、プロジェクトは複数年にわたって行われる予定で、
「漢方薬で治すのと一緒で、当然即効性は限られてくる。ある程度息長くやっていくのが重要」
などと話した。
(J-CASTニュース編集委員 兼 副編集長 工藤博司)