居酒屋、ラーメン店、西洋料理店、そば・うどん店...といった飲食店の倒産が過去最多に達している。
帝国データバンクが2025年1月14日に発表した「飲食店の倒産動向調査(2024年)」で明らかになった。
原材料費の高騰に加え、人手不足、さらに消費者の節約志向と、トリプルパンチを食らった形だ。飲食店の将来はどうなるのか。調査担当者に聞いた。
居酒屋、うどん・そば、お好み焼き、ハンバーガー店も過去最多
帝国データバンクの調査によると、飲食店の2024年の倒産件数(負債1000万円以上、法的整理)は894件で、コロナ禍の2020年(780件)を上回って過去最多を更新した【図表1】。
負債額1億円未満の小規模倒産が784件(同87.7%)と9割近くを占めた。負債額の最大は、ビヤレストラン、ビヤホールを展開していたアサヒフードクリイト(東京、7月、特別清算)の約89億9726万円。
背景には、コロナ関連の各種支援策が縮小・終了したことと同時に、急速に進行した円安を背景とした物価高の影響がある。さらに、コロナ禍からの経済回復により幅広い業態で人手不足となり、人材獲得のため賃上げなどの人件費負担の増加もネックとなっていた。
業態別に見ると、最も多かったのは居酒屋が中心の「酒場、ビヤホール」、ついでラーメン店などの「中華料理店、その他の東洋料理店」、「西洋料理店」が続いた。これら3業態に加え、「そば・うどん店」、お好み焼き屋やハンバーガー店が含まれる「その他の一般飲食店」の5業態で過去最多となった【図表2】。
帝国データバンクでは、こう分析している。
「大手クラスではコスト削減や価格転嫁により業績が改善したり、地域ニーズに合わせた既存店舗のブランド転換による差別化を図ったりしている企業もある。
しかし、大半を占める小規模事業者では、原材料や光熱費、人件費の負担が増える中でも、消費者の節約志向により値上げを躊躇し、厳しい資金繰りが続くケースが多い。中小クラスを中心に倒産や休廃業は高水準で推移するとみられる」
コロナ補助金で生き延びた「ゾンビ企業」にトリプルパンチ
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた帝国データバンク情報統括部の橋本伊織さんに話を聞いた。
――全体的に飲食店の倒産が過去最多を記録しましたが、ズバリ一番大きな理由は何でしょうか。
橋本伊織さん ひとことで言うと、キャッシュアウト(資金の流出)が増えていることが原因です。
コロナ禍の最中は、休業・時短営業に伴う協力金やゼロゼロ融資などの支援があり、小規模事業者では「店を開けるより儲かる」といった話も聞かれました。手厚いコロナ補助によって2022年までは倒産が抑制されていました。
ビジネスモデルに課題がある飲食店も「ゾンビ企業」として生き延びてしまったのです。ところが、補助金やコロナ融資も終わり、返済しなければならなくなりました。
そこに、円安による原材料費の高騰、さらに物価高が加わり、消費者が節約志向もあって飲食店に足を運ばなくなりました。
――コスト高とお客の減少というダブルパンチですか。
橋本伊織さん さらに、人件費の高騰が加わりました。アフターコロナでは経済が回復し始めたために、どこも人手の確保に躍起です。人件費が上がり、昨今の賃上げの動きに大手飲食店チェーンは対応できますが、中小・零細の飲食店では、働き手の確保に苦慮する所も多いです。
経営者の高齢化や体調不良などで、経営者の引退とともに店をたたむところも出ています。
バー、キャバレーは2次会、3次会が減ったのが打撃
――国民食といわれるラーメン店の倒産が急増している理由は何でしょうか。参入が簡単なために競争が激化しているとよく言われますが、「1000円の壁」という安い価格も影響しているのでしょうか。
橋本伊織さん 参入のハードルが低いため、どんどん新しい店ができて競争が激しいのが現実です。ただし、人気店などでは、必ずしも「1000円以内」でないとお客が来ないということはないようです。
ラーメン店に取材をした際、立ちっぱなしの仕事が辛いためになかなか店員が確保できないという話も聞きました。
――なるほど。たしかに飲食店は「立ち仕事」が多いことが問題ですね。最近、求人大手のマイナビが、「座ってイイッスPROJECT」として、飲食店やスーパーのレジ打ちなど立ち仕事のアルバイト向けに、ちょいと腰をかけられる専用椅子を開発して話題になっています。
橋本伊織さん それとラーメン店の場合は、豚骨、牛骨、鶏ガラ、チャーシュー(焼豚)、卵といったように「動物系」のだしや食材が多いのが特徴です。話を聞くと、「動物系」の原材料の値上がりの影響を大きく受けているという声も聞かれました。
――居酒屋、バー、キャバレーなどアルコール中心の店が軒並み倒産ラッシュですね。背景には最近の若者が女性の接待を嫌ったり、「ソバキュリアス」といってお酒を飲まないことを美徳とする文化が広がったりしていることが背景にあるのでしょうか。
橋本伊織さん コロナ以降、若者だけでなく中高年も含めて全体的にお酒を飲まなくなっていると思います。みんな早く飲み会を切り上げ、夜の街も以前より早く店じまいしているところもあるようです。
バー、キャバレーはリーマンショック(2008年9月)以降に法人接待が減少して厳しい環境が続いていました。また、2次会、3次会利用が多い場所ですから、飲み会の終わりが早まればお客は少なくなります。
イタリアンやフレンチは、「本場直輸入」が返ってマイナスに
――西洋料理店の倒産が過去最多であることも不思議です。イタリアンやフレンチなど、最近の若い女性はオシャレな店が好きだと聞いています。
橋本伊織さん データを調べると、都市部での倒産が多いです。家賃が高いうえ、店の雰囲気や料理などの流行が影響していると思われます。もう1つは食材の問題。本場のイタリアやフランスなどからの輸入食材や調度品を使うと、円安の影響でかなり高くなっていることが考えられます。
――今後の飲食店業界はどうなるでしょうか。生き残るためのアドバイスをお願いします。
橋本伊織さん 厳しさが増すと思いますね。石破茂首相が2020年代中に最低賃金1500円(時給)以上の達成を政権公約に掲げたこと、経済同友会の新浪剛史代表幹事が「2020年代中といわず、3年以内に達成してほしい。できない企業は市場から退場すべき」と主張したことなど、賃上げ圧力がさらに働くと考えられます。飲食店業業界の時給は低いですから、時給を上げられない店の淘汰が進むでしょう。
また、天候不順が続き、たとえばキャベツの価格が1キロ当たり500円近くと、平年の3倍以上も高くなるなど、野菜が軒並み高くなっています。弊社が最近発表した「2025年の食品価格改定動向調査」でも、2024年は2023年より値上げ品目が減って落ち着きを見せたのですが、2025年は4月までに2024年より6割増のペースで値上げラッシュが続く見通しです。
こうした厳しい状況の中でも生き残るためには、各店の特色を押し出して付加価値を生み出せる経営を行うこと、信頼できる企業との経営統合や事業譲渡などで体力をつけ、賃上げや経営効率化ができるようにすることなどが必要だと考えます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)