日本企業は「アルムナイ」を活用できるか? 「中途退職者は裏切り者」の意識が壁に

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   生え抜き人材だけでは対応できない経営課題に取り組むために、他社の経験者を自社に招き入れる「キャリア採用」を強化する会社が増えている。一方、キャリア採用組は自社の業務や企業カルチャーに馴染めず、活躍できないまま辞めてしまうこともある。

   そのような問題の解決策として注目されているのが「アルムナイ採用」だ。

   アルムナイとは定年退職者を除く「中途退職者」を意味する。自社のカルチャーを理解しつつ、社外で新たなスキルを身に着けた魅力的な人材として、期待されているというわけだ。

  • アルムナイ採用とは(写真はイメージ)
    アルムナイ採用とは(写真はイメージ)
  • アルムナイ採用とは(写真はイメージ)

「終身雇用が当たり前」と考える大企業社員

   とはいえ、「アルムナイ」という言葉の知名度はまだまだ低い。

   「月刊総務」が全国の総務担当者116人から回答を得た調査によると、「アルムナイ」という言葉を聞いたことがない回答者が32.8%。「言葉は知っているが内容はあまり理解していない」の18.1%を加えると、過半数の回答者が「アルムナイ」の意味を理解していない。

   自社で「アルムナイネットワーク」を構築している、もしくは準備中と答えた担当者はわずか12.9%にとどまり、現在構築していないし将来への準備もない、と答えた担当者が87.1%を占めている。

   採用支援会社に勤務し、上場企業のキャリア採用の助言もしているAさんは「もう少し知名度があると思っていましたが」としつつ、意外性はないとコメントした。

「日本の伝統的大企業の社員は、心の底で『終身雇用が当たり前』と考えている人がいまも多いですからね。中途退職者なんて『裏切り者』扱い。『カムバック(出戻り)採用』も、今でこそ一部で例がありますが、まったく考えられない時期が長かった」

   一方で、流動性の高い外資系コンサルティング業界などでは、アルムナイネットワークがきちんと整備されているという。

「会社が多額の費用を負担し、華やかなパーティでもてなすなどしてアルムナイを引き付けています。現役の役職員も参加してアルムナイとの再会を喜び、双方向のコミュニケーションをとってさまざまな情報交換をする。アルムナイとの関係がどれだけ貴重なのか、彼らはよく理解しています」

「生え抜き主義」では新規事業のネタに詰まる

   前述の調査で、アルムナイネットワークを自社で構築している回答者に取り組み内容を尋ねたところ、「OB会の開催」「社内報を退職者にも送る」「メールなどで定期的に情報提供」「同窓会を会社設備で不定期開催」といった回答があったという。

   Aさんは「これでは定年退職者への取り組みと変わらない」とし、現役ビジネスパーソンのアルムナイをネットワーク化する意味を理解しているとはいえない、と苦言を呈する。

「会社のコストをかけるわけですから、目的を明確にすべきです。まず考えられるのは『再雇用』を想定した取り組みで、アルムナイに求人情報を先行開示して募集をかけるとか、アルムナイのスキルや経験を登録してもらってスカウトをかけるとか。採用の成果目標を設定してもいいし、実際に取り組んでいる会社もあります」

   前述の調査では、自社に退職者の再雇用制度があるかと尋ねたところ「制度があり、再雇用の実績がある」と答えた人は32.8%で、「再雇用制度はない」が64.7%、「制度はあるが再雇用の実績はない」が2.6%だった。

   Aさんによると、外資系企業では再雇用を意識した取り組みのほか、重要業務の業務委託案件を開示し、フリーランスや副業として発注することもあるそうだ。

「業務委託から再雇用に発展したり、副業から起業につながって業務提携に至ったり、といったことが普通に行われています。新規事業の開発をどう進めるか悩む日本企業は多いですが、普段からアルムナイとのやり取りをしていれば、ネタに詰まることはなかったでしょう。『終身雇用』『生え抜き主義』が、現状を招いたともいえます」

誰を「アルムナイ」に参加させるのか?

   一般的な知名度の低さとは別に、一部の大手企業ではアルムナイのネットワーク化に取り組み始めている。

   みずほフィナンシャルグループでは、2020年に独自のアルムナイネットワークを設立し、専用SNSに産業調査レポートやアルムナイへのインタビュー記事を掲載している。トヨタ自動車では2022年に、パナソニックグループでは2024年に、それぞれアルムナイネットワークの運用を始めたということだ。

   Aさんは、アルムナイネットワークの重要性や取り組みの遅れを指摘しつつ、日本企業が成功するためのノウハウをこれから積み重ねる必要があるという。

「例えば、誰をアルムナイネットワークに参加させるのか、全員でいいのか、という問題があります。勤続年数や退職理由、退職時の評価などを基準に、参加の可否を決めることが考えられますが、こういう選択と排除は日本人は苦手ですよね」

   理想としては、どういう人がアルムナイネットワークに参加できるのかを在職中から知らされていて、退職時にネットワークへの登録を案内できる状態が望ましいが、それには労使関係が良好な状態で退職する必要がある。

   Aさんは「となると、やはり『中途退職者は裏切り者』という社内風土が最終的なボトルネックになりそうですね」と懸念する。

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