「義理チョコ」から「チョコ好き女性の祭典」へ バレンタインの変化に見る女性キャリアの光と影(2)/ニッセイ基礎研究所・坊美生子さん

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   2月14日はバレンタインデー。かつて職場では女性会社員が男性上司や社員に「義理チョコ」を配る習慣が広く見られた。

   それが現在、頑張る自分への「ご褒美チョコ」や、「チョコ好きの女性たち祭典」に変化している。いったい、何が起こったのだろうか。

   女性のキャリアの変化が、チョコの贈答行為の変化に表れているという報告をまとめたニッセイ基礎研究所の坊美生子さんに、チョコレート1個の中に込められた働く女性の思いを聞いた。

  • 自分への「癒し」のチョコケーキ(写真はイメージ)
    自分への「癒し」のチョコケーキ(写真はイメージ)
  • (図表1)20歳~30歳女性の就業率の推移(ニッセイ基礎研究所作成)
    (図表1)20歳~30歳女性の就業率の推移(ニッセイ基礎研究所作成)
  • (図表2)男女間賃金格差の推移(ニッセイ基礎研究所作成)
    (図表2)男女間賃金格差の推移(ニッセイ基礎研究所作成)
  • 坊美生子さん(本人提供)
    坊美生子さん(本人提供)
  • 自分への「癒し」のチョコケーキ(写真はイメージ)
  • (図表1)20歳~30歳女性の就業率の推移(ニッセイ基礎研究所作成)
  • (図表2)男女間賃金格差の推移(ニッセイ基礎研究所作成)
  • 坊美生子さん(本人提供)

OLパワー炸裂、痛快な0L復讐ドラマ「ショムニ」の人気ぶり

   <「義理チョコ」から「チョコ好き女性の祭典」へ バレンタインの変化に見る女性キャリアの光と影(1)>の続きです。

――たしかに、OLたちの「情報戦」によって男性上司が不遇になる例は私もいくつか聞きました。OLパワーのスゴさの例は、TVドラマでもありましたね。1990年代後半にヒットした「ショムニ」(江角マキコ、戸田菜穂、宝生舞、京野ことみさんら出演)は、「OLの掃き溜め」と呼ばれる部署(人事部庶務二課)が舞台。

くせ者ぞろいの6人のOLが、OL情報網を駆使して社内の情けない男たちに鉄槌を下す痛快なストーリー。毎回、上司らに啖呵を切る「ショムニ名言録」が女性たちをしびれさせました。「社員を監視して油をしぼるなら、まず自分から油をしぼるんだね! それが上に立つヤツの道理ってもんだよ!」「自分のご主人様は自分でしかないんだよ。しょせん、番犬は野生のオオカミには勝てないってこと!」。

そんなショムニたちの敵になったり、味方になったりするのが各部署の「お局様」たち。彼女たちに「女は安住したらおしまい、戦(たたか)ってこそ現役だよ!」なんて喝を入れられたりする一方、役員の重大不祥事情報を提供したりして。

坊美生子さん しかし、女性のキャリアの観点で重要な点は、「お局様」自身は、それで給料や地位が上がるわけではありません。特定部署で皆が気を遣う「怖い」存在ではあっても、組織で高い地位に就く「強い」存在にはなり得ないのです。その意味では「弱者」であることには変わりありません。

かつて、「お局様」を中心としたOLたちが情報網を駆使したり、バレンタインデーの義理チョコでうっぷんを晴らしたりして、男性社員に「復讐」したというのは半分事実であり、半分事実ではありません。

頑張る自分への「ご褒美チョコ」はなぜ、男性はダメなの?

――OLたちの男性社員への「復讐」が半分事実であり、半分事実ではないというのは、どういうことですか。

坊美生子さん 復讐し切れていないからです。不愉快な上司の昇進にマイナスの影響を与えたとしても、自分たちの立場は変わっていません。給料や地位は上がらないし、即物的なお返しを除けば、本質的には、職務上の利益を引き出せた訳ではないからです。義理チョコはOLが構造的な弱者だった時代の一時的な「うさ晴らし」にすぎなかったといえます。

――リポートでは、女性のキャリアアップとともに、義理チョコがすたれて「ご褒美チョコ」に発展する様子を分析しています。しかし、そもそもの疑問ですが、頑張っている自分への「ご褒美チョコ」が広がったとありますが、なぜ女性だけなのですか。男性だって頑張っていますから「ご褒美チョコ」を買ってもいいのでは?

坊美生子さん 理屈はおっしゃる通りですが、実際には少ないでしょう。男性が自身のためにチョコレートを購入するという消費行動自体はあると思いますが、それを「ご褒美」と認識するケースが少ないということです。それは、女性と違って男性は従来、残業や全国転勤を求められても、出世のために我慢することが当たり前だったからです。

昔から現在まで、仕事の上で頑張って成果を上げることを会社から求められているし、実際に、昇進昇級を果たしていきます。賃金統計で、年齢階級ごとの賃金カーブを見れば、男性は中高年にかけて上昇しています。だから、頑張って働くことに対して「ご褒美」という感覚が湧かないのです。

――たしかにそうです。若い頃の私がもし「自分へのご褒美チョコ」など買ったら、当時の鬼上司に「バッカモン!」と怒鳴られるでしょうね。

坊美生子さん 女性の場合は、実際に、男性と同等にタフなポジションに配置され、研修を受け、キャリアアップするようになったのはここ10数年のことです。

もっと男性同様にバリバリ働くのが当たり前になったら、「自分へのご褒美」という感覚は薄れていくでしょう。その意味で、「ご褒美チョコ」がまだあるということは、女性のキャリアアップが過渡期にあることを表わしていると思います。

しかし、最近では新聞記事でも「ご褒美チョコ」という言葉は少なくなっています。

――あなた自身も仕事と子育てに頑張っているわけですが、バレンタインデーに自分への「ご褒美チョコ」を買うことはありますか。現在は働く女性たちはどういうチョコが多いのでしょうか。

坊美生子さん 私は甘いものが好きなので、年がら年中、チョコレートを買っていますが、「ご褒美」という意識はありません。しいていえば「癒しチョコ」でしょうか。私だけではなく、最近の働く女性にとっては、「ご褒美」よりも、「仕事で疲れている自分への癒し」という方がしっくりくるのではないでしょうか。

最近は、百均や雑貨店でも「手造りチョコ」のキットやギフト小物をたくさん売っていますから、手造りを楽しむ人も多いでしょう。20年以上前、新聞社では義理チョコで戦略負けした私ですが、今では毎年、6歳の息子と一緒にチョコクッキーを作って、息子が大好きな親戚のお姉ちゃんやお友達にプレゼントしています。40歳を過ぎて、私にとってバレンタインはようやく、本当に心のこもったチョコレートを作る行事になりました。

近年では、働く女性が自分のために高級チョコを買って楽しんだり、小中学生だと友だち同士でチョコを作り合ってプレゼントしたり、いまはバレンタインのチョコの楽しみ方はさまざまです。本当にチョコ好きの祭典になったと言えるでしょう。特に、義理チョコのように職場にチョコを持ちこむ習慣がなくなったことは、女性のキャリアの観点では、とてもよいことだと思います。

義理チョコから解放された若い女性たちよ、どんどんチャレンジしよう!

――今回のリポートで、特に強調したいことはありますか。

坊美生子さん これまで説明してきた通り、義理チョコが、すべてOLの「構造的劣位」から生じてきたことを考えれば、義理チョコが下火になったことは、働く女性の地位向上の面で歓迎しています。しかし、働く女性がどれぐらい劣位を脱したのかというと、ホントにまだまだ途上。男女間賃金格差は今でも75%ぐらいだからです。

男女を同等に持っていくためには、男性だけではなく、女性自身も意識を変えていかないといけないと思います。近年は、企業も、女性登用に向けて積極的に、またはしぶしぶ取り組んでいます。

昔日OLとは違ってたくさんのチャンスがある現在の若い女性たちには、ぜひどんどん難しいこと、高度なことにもチャレンジし、自分の手でチャンスをつかんでほしいと願っています。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)



【プロフィール】
坊美生子(ぼう・みおこ)

ニッセイ基礎研究所生活研究部准主任研究員。2002年読売新聞大阪本社入社、2017年ニッセイ基礎研究所入社。主に中高年女性の雇用と暮らし、キャリアデザインを研究。
日本は世界の中でもジェンダーギャップが最低ランクで、働く女性の賃金や老後の年金にも大きな男女格差があり、老後の女性の貧困リスクは増している。女性がもっと自然体で、自律的に、生き生きと暮らしていくためには、社会全体のジェンダーギャップ解消が必須と考え、多くの研究リポートを発表。
また、生活者の視点から高齢者が利用しやすく、外出促進につながる移動サービスのあり方についても研究。現在、「次世代自動車産業研究会」幹事、日本民間放送連盟賞近畿地区審査会審査員。

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