「義理チョコ」から「チョコ好き女性の祭典」へ バレンタインの変化に見る女性キャリアの光と影(2)/ニッセイ基礎研究所・坊美生子さん

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頑張る自分への「ご褒美チョコ」はなぜ、男性はダメなの?

――OLたちの男性社員への「復讐」が半分事実であり、半分事実ではないというのは、どういうことですか。

坊美生子さん 復讐し切れていないからです。不愉快な上司の昇進にマイナスの影響を与えたとしても、自分たちの立場は変わっていません。給料や地位は上がらないし、即物的なお返しを除けば、本質的には、職務上の利益を引き出せた訳ではないからです。義理チョコはOLが構造的な弱者だった時代の一時的な「うさ晴らし」にすぎなかったといえます。

――リポートでは、女性のキャリアアップとともに、義理チョコがすたれて「ご褒美チョコ」に発展する様子を分析しています。しかし、そもそもの疑問ですが、頑張っている自分への「ご褒美チョコ」が広がったとありますが、なぜ女性だけなのですか。男性だって頑張っていますから「ご褒美チョコ」を買ってもいいのでは?

坊美生子さん 理屈はおっしゃる通りですが、実際には少ないでしょう。男性が自身のためにチョコレートを購入するという消費行動自体はあると思いますが、それを「ご褒美」と認識するケースが少ないということです。それは、女性と違って男性は従来、残業や全国転勤を求められても、出世のために我慢することが当たり前だったからです。

昔から現在まで、仕事の上で頑張って成果を上げることを会社から求められているし、実際に、昇進昇級を果たしていきます。賃金統計で、年齢階級ごとの賃金カーブを見れば、男性は中高年にかけて上昇しています。だから、頑張って働くことに対して「ご褒美」という感覚が湧かないのです。

――たしかにそうです。若い頃の私がもし「自分へのご褒美チョコ」など買ったら、当時の鬼上司に「バッカモン!」と怒鳴られるでしょうね。

坊美生子さん 女性の場合は、実際に、男性と同等にタフなポジションに配置され、研修を受け、キャリアアップするようになったのはここ10数年のことです。

もっと男性同様にバリバリ働くのが当たり前になったら、「自分へのご褒美」という感覚は薄れていくでしょう。その意味で、「ご褒美チョコ」がまだあるということは、女性のキャリアアップが過渡期にあることを表わしていると思います。

しかし、最近では新聞記事でも「ご褒美チョコ」という言葉は少なくなっています。

――あなた自身も仕事と子育てに頑張っているわけですが、バレンタインデーに自分への「ご褒美チョコ」を買うことはありますか。現在は働く女性たちはどういうチョコが多いのでしょうか。

坊美生子さん 私は甘いものが好きなので、年がら年中、チョコレートを買っていますが、「ご褒美」という意識はありません。しいていえば「癒しチョコ」でしょうか。私だけではなく、最近の働く女性にとっては、「ご褒美」よりも、「仕事で疲れている自分への癒し」という方がしっくりくるのではないでしょうか。

最近は、百均や雑貨店でも「手造りチョコ」のキットやギフト小物をたくさん売っていますから、手造りを楽しむ人も多いでしょう。20年以上前、新聞社では義理チョコで戦略負けした私ですが、今では毎年、6歳の息子と一緒にチョコクッキーを作って、息子が大好きな親戚のお姉ちゃんやお友達にプレゼントしています。40歳を過ぎて、私にとってバレンタインはようやく、本当に心のこもったチョコレートを作る行事になりました。

近年では、働く女性が自分のために高級チョコを買って楽しんだり、小中学生だと友だち同士でチョコを作り合ってプレゼントしたり、いまはバレンタインのチョコの楽しみ方はさまざまです。本当にチョコ好きの祭典になったと言えるでしょう。特に、義理チョコのように職場にチョコを持ちこむ習慣がなくなったことは、女性のキャリアの観点では、とてもよいことだと思います。
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