若者人口の減少で新卒採用が激化する中、どの会社もキャリア(中途、経験者)採用の取り組みを積極化している。とはいえ、待ちの姿勢で応募が来るわけもなく、転職エージェントから人材を紹介してもらうにも多額のコストがかかる。
そんな中、募集する人材の要件を自社の社員に開示し、紹介を依頼する「リファラル採用」の注目度が高まっている。社員に採用成功報酬として金銭を支払うなど、活動に注力してもらう仕組みを整える企業も出てきた。
成功報酬「30万円以上」を支払う企業も
リファラル採用ツール「MyRefer」を提供するTalentXは、リファラル採用の実施状況に関する2024年版の統計レポートを発表している。2500社あまりを対象とした調査では、62.0%の企業が「制度としてリファラル採用を実施している」と回答した。
「制度はないが社員からの紹介実績がある」との回答を加えると、実施企業は76.6%にのぼり、採用手法とする企業がかなり多いことが分かる。
実施企業の4社に3社は少なくとも1名以上のリファラル採用実績があるが、採用人数の割合に占める割合は「10%未満」の企業が57.9%を占めた。一方、流動性の高い保育・介護・病院では40.3%が「10%以上」と答えており、業種ごとの違いがある。
特に、IT・Web・広告や金融・保険などの専門職採用が多い業界では、専門性の高い人材獲得を重視する傾向が強い一方、保育・介護・病院では、採用コストの削減や従業員エンゲージメントの向上を目的とするケースが目立ったという。
人材を紹介した社員に対する報酬制度については、金銭型報酬があると答えた企業は33.6%で、「15万円以上30万円未満」「30万円以上」と答えた企業も、回答社全体の13.7%を占めた。
採用支援会社に勤務し、上場企業のリファラル採用の助言もしているAさんは、リファラル採用を手法として定着できている会社には、いくつかの共通点があるという。
「当然ながら、運用ルールを明確に定めることが大事なのですが、これをおろそかにして『とりあえず始めてみよう』という会社が多いのは怖いですね。考えてもらいたいのですが、信頼できる基準やプロセスで選考を行うことが見えていないのに、自分の大事な友人知人を紹介なんてできませんよね。特に大事なのは、万一応募者が不採用になった場合を想定して、事前や事後の説明やフォローをどのように行うかを決めておくことです」
不採用に納得しない応募者が紹介社員との関係を悪化させたり、それを見た他の社員が紹介を取りやめたりする事態も予想される。優秀な紹介社員が自社に不信感を抱き、退職してしまっては元も子もない。お互いの事前期待を調整するために、カジュアル面談から始めるなどの工夫が必要とのことだ。
「自分がいいと思わなければ、他人になんか紹介しない」
またAさんによると、制度の成果を上げるには「社員への周知」が実は重要だという。
「人事の方は、制度の細部まで細かく詰めることは好きなんだけど、それを社内に浸透させることを面倒がる人が結構いますよね。機会があるごとに経営トップから繰り返し告知してもらうとか、とにかく回数を増やすことが大事です。その際、自社の社名をもじった制度のネーミングをつけるとかも効果があったりします」
モスフードサービスの店舗運営子会社モスストアカンパニーでは、2017年から社内人材紹介制度「リファモス」を導入しているというが、これなどはその一例だろう。
なお、社員が自社に来てほしい人を食事に誘った場合、その費用を会社が全額負担する制度は、メルカリなどいくつかの会社が採用しているという。なかなか太っ腹だが、Aさんは、採用の決定率が上がるなら安いものだと指摘する。
「例えば、年収650万円の人を転職エージェント経由で採用して、成果報酬を3割支払う場合、単純計算で195万円になりますよね。それと比べたらディナー代なんて安いもんじゃないですか? 知り合いが社内にいれば、定着もしやすいわけですし」
先の調査結果でも、1人あたりの平均インセンティブは13~17万円程度とのことだ。しかし、Aさんがそれよりも大事と強調するのは「既存社員の満足度」だという。
「結局、自分の会社がいいと思わなければ、友人知人になんか紹介しないですよ。新たに採りたい人だけでなく、いまいる社員の満足度を高めなければ、リファラル制度は機能しません。身も蓋もない結論ですが、社員の満足度が高ければ、制度がなくたって優秀な人材を呼んでくるものです」