民家の茶の間に居座り、騒動となったツキノワグマについて、福島県喜多方市が山に戻したことに対し、「なぜ殺処分にしなかったのか」との声がネット上で相次いでいる。
食べ物を食い荒らしたとも報じられており、学習したクマが戻ってくる恐れも指摘されている。市の有害鳥獣対策室では、人気のない山中のため戻らないだろうと現場で判断したと取材に説明し、「地元に施錠を呼びかけ、追い払い機も設置する」などと対策も明かした。
「また帰って来るのでは」「別の家に入る危険もある」
体長約90センチの黒っぽいクマが、茶の間の床の上で動いている。クマは、喜多方市内の山あいの集落にある家で2024年12月23日夕に見つかり、テレビのニュースでは、こんなシーンも流れた。
報道によると、自宅に帰った男性(66)が、茶の間のコタツに頭から体半分を入れたクマを見つけ、隣の家に避難した。猟友会を通じて警察に通報され、男性が警察と自宅に見に行くと、クマは、コタツの上の菓子などを食い荒らしていたという。裏口のサッシが外れており、そこから入り込んだともみられている。
24日に入って、猟友会メンバーらが花火を使って追い払うと、クマは、隣の家の物置の中に逃げ込んだ。獣医師が麻酔を塗った吹き矢でクマを眠らせ、その後クマは捕獲された。
クマは、殺処分されず、集落から離れた山の中で放獣された。集落には、すでに雪が降り積もっていたが、木の実などが豊作でエサを探すなどしていて冬眠しなかった可能性があるという。
クマを山に戻したことが報じられると、ネット上では、様々な意見が寄せられて議論になっている。
殺処分はかわいそうなのでよかったとの声も出る一方、「また帰って来るのでは」「別の家に入る危険もある」などと疑問が相次いだ。「クレーム電話を入れられる事を恐れてしまったんじゃないのか」とのうがった見方まであった。
今回、殺処分せず放獣した理由について、喜多方市の有害鳥獣対策室は25日、J-CASTニュースの取材に対し、次のように説明した。
喜多方市「殺処分するかの判断は、ケースバイケース」
「集落から離れた人気のない場所にクマを運搬しましたので、現地で協議して、もう戻れないぐらいのところだと判断しました。しかし、食べ物の味を覚えて戻ってくる場合もないとは言えませんので、地域の方々に放送でお知らせして、家の施錠をしっかりするように呼びかけました。食べ物を外に置きますと、クマが嗅ぎつけて来ますので、置かないように注意喚起もしています。今回クマが入った家には、光を出して追い払える機械も今後設置する予定で、周辺のパトロールも強化していきます」
追い払い機については、12月2日に同じ地区の空き家にクマが入った後に設置すると、その後はクマが戻って来なかったという。
クマがかわいそうとのクレーム電話を恐れたかについては、そのようなことではないと否定した。
今回クマを放獣したことについて、25日昼過ぎまでに喜多方市に10件以上の意見が寄せられている。「また戻ってきたらどうする」「殺さなくてよかった」などと、賛否が半々ぐらいだという。
市では、殺処分するかは、被害の程度などによってケースバイケースで、判断の基準について一概に言えないとした。過去には、現場の判断で、有害鳥獣駆除のため殺処分したり、放獣したりと対応が分かれているという。
殺処分か放獣かの判断について、福島県の自然保護課は25日、基準は特にないと取材に答え、次のように話した。
「人に危害を加えるなどした有害個体については、駆除もやむなしと思っています。緊急時の捕獲権限は、市町村に移譲しており、今回は、市の判断で山に戻したということです。重要な動物の命を尊重したいという認識もありますが、人里に降りて来て危害も生じやすく、悩ましいところがあります。今回は、駆除もやむを得ないという判断も、放獣した方がよいとの判断も、どちらもできたと思います。最終的には、現場で個体を見て判断しますので、どちらが適切かは言えません。駆除か放獣か、方針が決まっている市町村はないと思います」
(J-CASTニュース編集部 野口博之)