「手挙げ」で行きたい部署を、社内サイトで公募する
――それはとてもいい試みですが、企業側の責任はないのでしょうか。
福澤涼子さん 新卒一括採用文化がまだ根強く、「こういう仕事をしたい」というよりも「この会社で働きたい」が先行しがちになっています。最近は「配属ガチャ」などと言われて、配属先を決めた入社も増えていますが、多くの場合はどこに配属されるのかわからないので、具体的な将来像を描きにくいですよね。
また、長期雇用が揺らいでいるとはいえ、職務内容や勤務地などにこだわらなければ、雇用は継続されます。米国のジョブ型の会社などでは、事業が突然なくなったら転職せざるを得なくなりますが、日本は別の事業部に異動になるなどして雇用は継続されることが多いです。
――なるほど。キャリア自律が進まないのは本人に問題があるとしても、背景には教育や就職活動、会社の人事管理などさまざまな環境の影響を受けているわけですね。ところで、最近は働く個人の意思を尊重する異動が広がっていると書いていますが、具体にはどんな動きですか。
福澤涼子さん 大企業などでは、社内公募/社内FA型の人事制度が導入され、手挙げによる異動が増えています。
たとえば、従業員向けの求人サイトのようなものがあって「〇〇事業本部の□□チームで2人募集中。仕事内容は〇〇〇〇。△△の資格などがあり、□□□□の意欲がある人材を求む」といった情報が掲載されて、異動希望者はそのサイトから応募して転職のように選考を受けるのです。
――素晴らしいですね。
福澤涼子さん ところが、せっかく公募型の人事異動を制度としてつくっても応募が入らず活用されないことも多いと聞きます。あるメーカーに勤務の方の場合、もともと海外での仕事に興味があり、そういったポジションの公募があったので応募したそうですが、自分以外に応募している人はほとんどいないと話していました。
外資系の企業では、手挙げ制度が普及しています。みんな虎視眈々と空きそうなポジションを狙って情報収集に余念がありません。その点、日系企業ではまだ自分の意志で異動をするという意識が低く、社員が他のポジションや事業への理解にも消極的で応募に至らないという課題があります。
うまく活用しているところでは、制度をつくるだけではなく、理解を促すために該当ポジションで働く人に実際に話を聞いてみるとか、仕事内容をより詳しく紹介するようなサイトを作るなどの工夫をしたり、中にはAIが社内求人を推薦してくれるという仕組みをつくった企業もあるようです。
もう1つ最近、注目されているのは「社内副業」の広がりです。
<キャリアを決めるのは自分か?会社か? いまこそ必要「キャリア自律」...5年後、10年後なりたい自分を想像して(2)/第一生命経済研究所・福澤涼子さん>に続きます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
福澤 涼子(ふくざわ・りょうこ)
第一生命経済研究所ライフデザイン研究部副主任研究員、慶応義塾大学SFC研究所上席所員
2011年立命館大学産業社会学部卒、インテリジェンス(現・パーソルキャリア)入社、2020年慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科修士課程修了、同大学SFC研究所入所、2020年リアルミー入社、2022年第一生命経済研究所入社。
研究分野:育児、家族、住まい(特にシェアハウス)、ワーキングマザーの雇用。最近の研究テーマは、シェアハウスでの育児、ママ友・パパ友などの育児ネットワークなど。6歳の娘の母として子育てと仕事に奮闘中。