中途採用でも「未経験者可」の求人が増えている。20代の転職者の多くは未経験職への挑戦だが、年収アップを期待することが可能になった。
人材総合サービスのパーソルキャリア運営する転職サービス「doda(デューダ)」が2024年12月4日に発表した「20代 未経験職種への転職時 決定レポート」によると、未経験分野への挑戦で年収アップが目立つ前職がある。
それは何か。そして、どんなスキルと心構えを持って新天地に挑戦すればいいだろうか。「doda」編集長の桜井貴史さんに話を聞いた。
年収増トップ3は「クリエイティブ」「営業」「事務」からの転職
「doda」の調査は、2019年度から2023年度までの5年間に「doda」エージェントサービスを利用して転職した20代のデータを分析したもの。
経験者採用が中心の中途採用でも、「職種未経験可」の求人数が5年間で約4倍に増え、間口が広がっている。特に、20代は転職者の約半数が未経験職種への挑戦が特徴で、5年間で約1.4倍に増加した。
転職前後の年収の変化をみると、2023年度は6割近くの個人が年収アップをかなえた。平均決定年収金額は2019年度と比べ、358万円から384万円へと26万円アップしている【図表1】
では、前職がどんな職種だと、異業種への挑戦でも年収アップが期待できるのだろうか。特に年収アップをかなえた個人の割合が大きかったのは「クリエイター・クリエイティブ職」「営業職」「事務・アシスタント職」の3つだ。
未経験職への転職者の平均決定年収の推移を見ると、前職「クリエイター・クリエイティブ職」の場合は、2019年度=345万円から2023年度=391万円と、約47万円アップ。前職のスキルや経験との親和性の高さから、「マーケティング職」などに挑戦する個人が多い傾向がある【図表2】。
前職「営業職」の場合は、2019年度=363万円から2023年度=401万円と、38万円アップ。営業職は、20代後半になるとリーダー職に就くなど年収水準が上がるケースが多く、異職種に転職しても年収アップがかないやすい【図表3】。
前職「事務・アシスタント職」の場合は、2019年度=356万円から2023年度=384万円と、28万円アップ。企業はDXなどの業務効率化を推進する中で、スキルや実務経験を持つ事務系を採用するケースが増加中だ【図表4】。
もともと企業は、将来事業を担う20代の採用意欲が高い
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった「doda」編集長の桜井貴史さんに話を聞いた。
――20代の未経験職種への転職者の6割近くが年収アップをかなえていますが、その理由は何でしょうか。
桜井貴史さん もともと、企業では将来的に事業を担う役割である20代の採用意欲が高い傾向にあります。昨今は新卒・中途採用ともに難易度が上がる中で、若手層の採用力を高めるために他社より良い条件を提示する必要性が高まっています。
20代は、他の年代に比べて勤務経験が浅いことから、アピールできる成果がまだないケースも多いです。そのため、職種を超えて活かせる汎用的なスキル、いわゆるポータブルスキルで評価されやすいという特徴があります。
年収アップを実現したい場合は、ポータブルスキルをはじめとする、前職のスキルや経験が横展開できる領域に転職するのがポイントです。加えて「学びの姿勢を見せる」ことで、採用担当者から「成長し、即戦力として活躍できそうだ」と感じてもらえるでしょう。
――未経験でも年収アップを果たす個人が目立つ前職として、「クリエーター。クリエイティブ職」「営業職」「事務・アシスタント職」をあげています。どういう背景があるのでしょうか。
桜井貴史さん 「クリエイター・クリエイティブ職」は、大きくWeb系職種と映像系職種に分けられます。それぞれ、他職種で汎用性の高いポータブルスキルが発揮される仕事のため、年収アップをかなえるケース多いと考えます。
Web系職種は「ニーズを引き出し、くみ取るスキル」や「数字やデータの分析力」「PDCAを回す力」が強みであることが多いです。
具体的には、前職がWebプランナーであれば、市場調査やプロモーション企画経験などが評価され、事業会社のネット広告や販促PRを担う「マーケティング職」に転職し年収アップするケースが挙げられます。
映像系職種は「調整力」や「巻き込み力」などを強みとする個人が多い印象です。前職が制作会社の映像ディレクターであれば、培った業界知識や人脈などが評価され、代理店の「広告・メディア営業職」に転職するケースで年収アップしたケースがあります。
汎用性の高い「営業職」、業務効率化に役立つ「事務職」のスキル
――「営業職」はいかがですか。
桜井貴史さん 営業経験者の汎用性の高いポータブルスキルや、近しい業界知識を持つ人材のポテンシャルに期待し、企業が年収を引き上げて採用していると考えられます。
「コミュニケーションスキル」「ニーズを引き出すスキル」「顧客関係構築スキル」、また自社製品を顧客に選んでもらうための「分析力」「プレゼンテーションスキル」などがそれです。
具体的には、広告代理店の広告営業として、販売促進課題や集客課題に対し、数値の分析による継続的な課題特定が目標達成につながった経験が評価され、ベンチャー企業の「マーケティング職」や「営業企画職」へ転職したケース。
ほかに、損益計算書や貸借対照表の知識や銀行への融資交渉経験が評価され、金融業界の「法人営業」からスタートアップ企業の「経理職」へ転職したケースなどが挙げられます。
――「事務・アシスタント職」は女性が多い印象があります。新天地を目指す女性たちにも励みになりますね。
桜井貴史さん 「事務・アシスタント職」は比較的年収が低い水準であるため、異職種転職で年収アップをかなえやすい職種です。
とくに、すでに事務知識のある領域の専門職に転職するケースでは、即戦力としての活躍が期待できることから、より年収アップをかなえやすいといえます。
また、企業がDXなどの業務効率化を推進する中で、業務改善や効率化につながるスキルや実務経験を持つ元事務アシスタント職を採用するケースが増加しています。業務効率アップにつながるエクセルスキルやSaaSサービス活用経験があることも年収アップへのアピールポイントになるでしょう。
具体的には、「経理事務」で培った経験や簿記資格を活かし、事業会社の「経理」へ転職したケース。エクセルのマクロを使って組織の業務効率改善をした実務経験が評価され、「営業事務アシスタント」から「営業企画職」へ転職したケースなどが挙げられます。
<20代の転職、「未経験職」への挑戦が増加 6割が年収アップ!...アピールの秘訣は?(2)/「doda」編集長・桜井貴史さん>に続きます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
桜井 貴史(さくらい・たかふみ)
doda編集長
新卒で大手人材会社に入社、一貫して国内外の学生のキャリア教育や就職・転職、幅広い企業の採用支援事業に携わる。
2016年11月、パーソルキャリアに中途入社。新卒オファーサービス「dodaキャンパス」の立ち上げを牽引し、初代dodaキャンパス編集長に。大学生向けサービスの責任者を務める。
2024年4月、doda編集長に就任。サービスを通じてこれまで60万人以上の若者のキャリア支援に携わり、Z世代の就職・転職動向やキャリア形成、企業の採用・育成手法に精通している。