東海道・山陽新幹線「のぞみ」の自由席が、2025年の春(おそらく3月ダイヤ改正時)に、3両から2両に削減されることが話題になっている。
「のぞみ」は、全車指定席の列車として登場し、2003年10月に自由席が設けられた。だが東海道新幹線の列車の中ではもっとも指定席が多い列車であり、繁忙期には全車指定席になる。
そんな「のぞみ」の、自由席が減る。現在は1号車から3号車までが自由席だったのが、3号車を指定席にすることで、85席指定席が増えることになる。
かつての新幹線・特急は「自由席」が多かった
近年、新幹線・特急では指定席の多い列車が増えている。東北・北海道新幹線「はやぶさ」「はやて」、秋田新幹線「こまち」、山形新幹線「つばさ」、北陸新幹線「かがやき」は、新幹線では全車指定席である。
在来線特急では、全車指定席の列車が多い。JR東日本では中央本線「あずさ」、常磐線「ひたち」など、JR北海道では「北斗」など、JR西日本では「サンダーバード」など、自由席をそもそも設けない特急列車も増えている。
自由席があっても、その割合を減らしている列車が多く、乗車時には指定席を取るのが基本となっている。
国鉄時代、「エル特急」と呼ばれた特急があった。本数も多く、自由席があり気軽に乗れることを売りにしていたこれらの列車は、特急の大衆化に寄与し、急行中心の優等列車体系から、特急中心に変化していく時代の要請に応えるものとなっていった。
短距離の特急が増発される中で、在来線特急には自由席が多く連結されるようになった。いっぽう、新幹線も短距離利用が増え、また新幹線通勤をする人も増加する中で、自由席の需要が高まっていった。
自由席は指定席よりも500円程度安く(時期による)、また自由席用の特急回数券も多く発売されるようになり、かつての急行列車のような気軽さで特急列車に乗る人が増えていった。
長期の連休の際には、自由席の列に並んだ人も多いのではないだろうか。
指定席化が進む現在の新幹線・特急の問題点
しかし近年では、JR東日本を中心に、新幹線・特急の指定席化を進めている。確実に座れることがサービスであると考えるようになり、いっぽうで指定席のみにすることで増収をめざす考えもある。また、自由席の場合には車内で自由席特急券を買う人も多く、そのために車掌を多く乗務させなければならないという問題が発生した。
そういった課題を解決するために、新幹線・特急の指定席を増やす、あるいは全車指定席にするようになっていった。
必ず座れる、という乗客側のメリットは大きい。また、乗務員を減らせる鉄道会社側のメリットもある。いいことずくめのような気はする。
いまでは、改札を通ったらその列車の指定席にどれだけの人が乗るかはわかるようになっている。そのことで指定席では検札がなくなった。
自由席が主体の列車は、満員になることがほとんどない地方部の在来線特急列車や、通勤客の多い新幹線列車くらいになっている。
では新幹線・特急の指定席が増えることで、誰が割を食うのか?
通勤に新幹線・特急を使う人がいる
新幹線や在来線特急の定期券というのがある。新幹線に定期券があるのはよく知られているが、在来線特急の定期券も、実は存在する。JR北海道やJR西日本、JR四国、JR九州にある。
これについては、指定席の増加、あるいは全車指定席で困っているケースも発生している。JR北海道では、指定席のみの列車しか走っていないところで、特急定期券「かよエール+」を発売している。普通車指定席の空席を利用できることになっている。利用3日前から指定席予約も可能だが、ちょっと手間がかかるようになっている。
新幹線でも、同様のケースがある。東北新幹線の盛岡以北、北海道新幹線では全車指定席の新幹線ばかりである。このエリアでは空席に座ることにしている。
幸い、これらのエリアはふだんから混雑していないから問題が起こらないのが現状だ。
しかし東海道・山陽新幹線「のぞみ」のように、ふだんから混雑している列車の自由席が減ることで割を食う人もいるのだ。
「EXサービスで座れるからいいじゃない」という人がいるかもしれない。しかし山陽新幹線では、「のぞみ」の停車駅を細かく変えることで、地域内の利用にも便利なようにしている。また東海道新幹線では、名古屋~京都間などの通勤・通学といった需要もある。また意外なことに、新横浜~品川・東京という通勤もあるのだ。たとえばJR東海で働く人たちである。
長距離の需要ではなく、細かな需要には自由席でないと応えられないという問題がある。そういう人たちが割を食うのだ。混雑が目立つ「のぞみ」で自由席削減とするから、大きく話題になるといえる。(小林拓矢)
筆者プロフィール
こばやし・たくや/1979年山梨県甲府市生まれ。鉄道などを中心にフリーライターとして執筆活動を行っている。著書『関東の私鉄沿線格差』(KAWADE夢新書)、『JR中央本線 知らなかった凄い話』(KAWADE夢文庫)、『早大を出た僕が入った3つの企業は、すべてブラックでした』(講談社)。