JR東日本が、普通運賃の値上げを検討していることが報じられている。消費税による値上げを除けば民営化以来初の値上げとなるが、私鉄各社にも波及するのか。鉄道ジャーナリストの枝久保達也さんに見通しを聞いた。
運賃引き上げ検討に至った2つの背景
報道各社は、初乗り運賃を現在の150円から10円値上げるとの方針や、近々国土交通省に申請し26年春から新運賃で運用する予定であることなどを報じている。JR東日本は2024年12月4日、「当社が発表したものではなく、現時点で決まっている事実はありません」と発表している。
枝久保さんは値上げの背景について、(1)コロナ禍での運輸収入が減少、(2)制度見直しによる「総括原価」の範囲の拡大の2つを挙げる。
1つ目の運輸収入の減少の前提として、鉄道運賃は「総括原価方式」をとっている。これは、「営業費に事業報酬を加えた『総括原価』を基準に、総収入が総括原価を上回らない範囲で上限運賃が認可される」ものだ。
JR東日本が運賃改定を申請するということは、「鉄道事業の収入が総括原価を下回る、つまり『赤字』の状況」を意味する。実際、19年度と24年度の上半期の収入を比較すると、699億円(10.5%)の減収となっている。これは、他社と比較しても大きな減収率だという。
2つ目については、「持続可能な鉄道輸送サービスに資する設備投資の促進」「人材の確保」「災害からの復旧」のため、24年4月に「総括原価」の算定方法が改定された。枝久保さんによると、「近年鉄道事業者を悩ませていた費用増を、総括原価に含めることができるようになった」という。
減収率が比較的低い西武も値上げを表明
では、JR東日本以外の私鉄も、運賃を引き上げる可能性は考えられるのか。
枝久保さんは、コロナ禍で減った収入が戻ってきている事業者もあるが、「収入が不足している事業者は新制度を活用して、値上げに踏み切るという判断をすると思います」とする。
19年度と24年度の上半期の比較で減収率が高い事業者としては、小田急電鉄(8.5%減)、京阪電気鉄道(5.1%減)、阪急電鉄(4.9%減)などがある。消費増税やバリアフリー料金制度導入の影響は加味していない。
このうち京阪電気鉄道は25年10月から運賃を値上げする方針を発表しているが、枝久保さんによると「小田急と阪急にはそのような話は上がっていません」。一方、2.4%減にとどまる西武は申請の方針を表明していることも指摘している。つまり、減収率が高い会社が必ずしも値上げに踏み切るわけではないし、逆に比較的減収率が低くても値上げする会社もある、ということだ。
そのうえで枝久保さんは、「各社がどのような経営方針を取るかで総括原価は変わってくる」ため「事前にこの事業者は改定しそう、しないというのはなかなか申し上げにくいところです」とした。