毎年12月4日~10日は「人権週間」とされている。昨今、LGBTQ+をはじめとする性的マイノリティーの人たちへのハラスメント問題が注目されている。
そんななか、人事向けサービスを展開する調査会社アスマーク(東京都渋谷区)と、多様な人が働きやすい職場づくりを推進する人事コンサル会社アカルク(大阪市中央区)が共同で2024年11月13日に「LGBTQ+有職者1万人調査2024」を発表した。
職場に約10人に1人いるとされる性的マイノリティーの人々が働きやすくするためには、どうしたらよいだろうか。
パワハラに認定された「SOGIハラ」と「アウティング」とは?
アスマークとアカルクの共同調査(2024年8月7日~8月21日)は全国の20歳~64歳の就労者1万人が対象だ。
性的マイノリティーには「レズビアン(女性の同性愛者)」「ゲイ(男性の同性愛者)」「バイセクシャル(両性愛者)」「トランスジェンダー(出生時の性と性自認が一致しない)」「エックスジェンダー(男性、女性の二元論にあてはまらない性自認)」「クイア・クエスチョニング(自身の性自認や性的指向が定まっていない、もしくは意図的に定めていない)」などの人がいる。また、異性愛者で出生時の性と性自認が一致している、性的マイノリティーではない人を「シスヘテロ」と呼ぶ。
今回の調査では、全体の13.1%(約8人に1人)がこれら性的マイノリティーに該当するとわかったが、一般的に職場には約10人に1人の割合でいるという。
現在、職場の性的マイノリティーへのハラスメントで問題になっているのは「SOGIハラ(ソジハラ)」と「アウティング」だ。
SOGIハラは、「〇〇なんて気持ち悪い」などと、性的指向や性自認に関連した、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせを行うこと。「Sexual Orientation and Gender Identity」の頭文字をとったものだ。性的指向(好きになる性)と性自認(自分が認識している心の性)を意味する。
アウティングは、「実は〇〇さんはトランスジェンダーらしいよ」などと、性的マイノリティーであることを、本人の了解を得ることなく他人に暴露する行為。SOGIハラの1種だが、職場では「ネタにした冗談・からかい」に使われるなど最も多いとされる。
2020年6月から大企業には改正パワハラ防止法が適用されたが、厚生労働省の指針でSOGIハラとアウティングはパワハラであると明示された。
「女らしさ、男らしさ」を要求する上司、「容姿・外見」を批判する経営層
今回の調査では、全体で8.4%の人が職場でのSOGIハラを見聞きしている。特にトランスジェンダーの15.4%が見聞きした経験がある。ただし、昨年(2023年)調査よりは半数近くに減っており、SOGIハラが減少していることがわかる。
アウティングについては全体で6.9%が、トランスジェンダーでは13.5%が見聞きした経験がある。こちらも昨年より減少傾向にあり、ともにハラスメントであるという意識が広まっているようだ。
SOGIハラ・アウティングを見聞きした後の行動を聞くと、全体の5割強(52.1%)が「何もしなかった」と答えた。被害者の話を聞いた人は3割強(35.8%)、相手に注意した人は2割弱(18.4%)だった。
一方、SOGIハラやアウティングの被害にあった人は、それぞれ3~4%いる。加害者は直属の上司が最も多く、「女らしさ、男らしさ」を要求する発言が多い。経営者や役員からは「容姿や外見に言及する発言」がもっとも多く、会社の上層部にいくほどハラスメントに関するという認識が薄いことがわかる。
また、職場でSOGIハラ・アウティング対策が行われているかを聞くと、全体で7割近く(69.6%)が「全く」もしくは「ほとんど」対策が行われていないと答えた。特にトランスジェンダーの8割近く(76.5%)に達した。
「彼女(彼氏)いないの?」「女子力高いね」という無意識のハラスメント
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった株式会社アカルク人事コンサルタント中島仁志さんに話を聞いた。
――2023年の調査に比べると、2024年のSOGIハラとアウティングは減少していますね。この減り方をどう評価しますか。まだまだ不十分だと思いますか。それともかなり理解が進んだと考えますか。
私個人は最近、テレビドラマなどで真面目に取りあげられることが増えた面が大きいのではないかと考えているのですが。
中島さん SOGIハラもアウティングも2023年より減ってきており、理解が進んでいると思われます。ご推察の通り、ドラマや漫画などでもLGBTQ+を取り上げたものが多くみられ、受け入れられている状況やハラスメントを見過ごさないという社会の雰囲気が以前よりもできていると感じます。
また、社内研修を通じて学ぶ機会も増え、明らかな差別的な言動(ホモ・レズ・気持ち悪いといった言動)が少なくなったことも考えられます。
一方で、性的マイノリティー当事者が感じるSOGIハラやアウティングの割合はシスヘテロの方より多いため、これで十分だとは考えておりません。たしかに明らかな言動は減っているものの、無自覚・無意識なSOGIハラやアウティングが存在しており、当事者と非当事者における認知の差が表れていると推察されます。
――無自覚・無意識なSOGIハラやアウティングとは、どういうケースをいうのですか。
中島さん たとえば、コミュニケーションのつもりで「彼女(彼氏)いないの?」とか「どんな人がタイプなの?」と繰り返し聞いてくるケースです。また、褒めるつもりで「女子力高いね!」と言うケースも当事者を傷つけます。
上層部の加害から職場の仲間を守るには?
――SOGIハラ・アウティングを見聞きした後の行動ですが、「何もしなかった」人が半数強半面、被害者の話を聞いたり、相手に注意したりした人も半数弱います。この結果をどう評価しますか。
私はずいぶん多くの人が、SOGIハラ・アウティングの被害者に共感するようになったなと感心しています。私の経験では、デリケートな問題を含んでいるので、あまり事を大きくすると、かえって被害者のためによくないのではないかという意識が働いてしまうからです。
中島さん 「何もしなかった」方が全体で5割を超えており、かつシスヘテロの方が性的マイノリティーの方よりも多い傾向があります。「何をしていいのかわからない」とか「(自分事化して)何かしら行動することができない」という方が一定数いると思われます。
ご指摘のとおり、表沙汰にすると被害者にとってよくないと思われている方もいると考えられますし、噂話やなんとなく見聞きしたため具体的な被害者がわからなかったという意見もありました。
一方で、性的マイノリティー当事者は、シスヘテロの方よりも「被害者の話を聞いた」割合が高いため、自分事化しながら行動に移せる方が多いと思われます。
――直属の上司、さらに経営者・役員からの被害が多いですね。これは企業として大問題です。また、一般社員の立場から職場の仲間がそのような被害にあった場合、相手が上層部だけにどう対応したらよいと思いますか。
中島さん 調査では、性的マイノリティーの人が安心して働ける職場環境にするために取り組むべきこととして「差別禁止の明文化」や「ガイドラインの作成」が上位に上がってきています。
まずはトップや経営層のLGBTQ+についての理解が必要ですし、研修やワークショップなどを通じてのインプット・アウトプットも重要になります。
人事・管理職・一般社員に対する研修は大手企業を中心にある程度進んできているため、今後は経営層への研修の必要性も感じています。また、相手が管理職や経営層といった自身の上長にあたる場合は、人事や相談窓口(可能であれば社外相談窓口)へ連絡し、対応を進めてもらうことがよいと思われます。
取り組みに正解はない、会社のトップが率先して行わなければ
――なるほど。上層部だからといって、ひるんでいては同僚を救えませんね。今回の調査で特に強調しておきたいことがありますか。
中島さん SOGIハラやアウティングの認知は進んできているものの、具体的にどうしたらよいか、まだ分からない方が多いです。企業側としても取り組みは進めているものの、当事者社員との認識の差がある取り組みになっている可能性もあります。
まずは経営者や役員など経営層への研修を進め、SOGIハラやアウティングの認識についてトップ自らが率先して行い、方向性を示すと企業風土全体にも影響しやすくなります。
「このような取り組みが正解」という施策がないからこそ、企業として「SOGIハラやアウティングをなくしていく」という強い意思をもって対策していくことが必要でしょう。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)