給与テーブルを作らないのは、「密な人間関係」で決めたいから
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を担当したリクルートの笠井彰吾さんと津田郁さんに話を聞いた。
――労働者としては、自分の給料がどうやって決められているのかは最大の関心事です。給与テーブルを策定していない企業が1割あります。こうした企業では、どのように給料を決めているのでしょうか?
笠井彰吾さん 調査では、「給与テーブルを作成していない」と回答した企業に対し、その理由を複数回答でたずねています。
その結果、管理職、非管理職とも、最多の理由は「柔軟に給与額を設定するため」。次いで、「現在の従業員規模では運用上困っていないため」「給与テーブル通りの運用が難しいため」が続きます。
策定していない企業は、従業員数5000人以上だと3%未満ですが、5~29人の企業では4割弱に上ります。従業員規模が小さくなればなるほど、給与テーブルを策定していない企業の割合が高まるのです。
すなわち、中小企業のように従業員の人数が少ない企業では、給与テーブルで人件費を固定化するのではなく、経営者と働き手との密なコミュニケーションを通じ、柔軟に給料を決めていると考えられます。
――柔軟といえば聞こえはいいですが、密な人間関係で給料が決まるのが、いいことなのか、悪いことなのか......。給与テーブル自体を従業員に公開しない企業も多いですが、こうした実態をどう見ればよいのでしょうか。
笠井彰吾さん 給与テーブルを策定しない理由と重なりますが、背景には給与テーブル通りの運用が難しいことがあります。中小企業は大企業と違い、5年後、10年後といった中長期的な経営の見通しが立ちにくい側面はあるかと思います。つまり、中長期にわたって「給料をこう支払う」と開示しにくいわけです。
経営者と働き手の間での密なコミュニケーションで、給与の金額の根拠を伝えている企業もあるでしょう。しかし、給与テーブルは働き手にとってわかりやすい指標でもあります。
構造的な人手不足で多くの企業が人材を必要とするなか、任せる業務や配置・配属の理由についての説明だけではなく、「なぜこの給料の金額なのか」をわかりやすく説明できるかどうかは、働き手が企業を選ぶ大事な要素の1つになっていると、企業は考えるべきでしょう。