「物流の2024年問題」運転手の残業規制で「モノが運べない」危機のはずが...逆に輸送量増加の不思議

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   2024年4月から働き方改革関連法が適用され、長時間労働が当たり前だった運輸・物流業界で働くトラック運転手の時間外労働の上限規制が始まった。

   物流の停滞が懸念されていたが、帝国データバンクが2024年11月25日に発表したレポート「物流の2024年問題の現在地、貨物輸送はこれまでと同水準を維持!?」によると、意外なことに逆に輸送量が増えている。

いったいどういうことか。調査担当者に聞いた。

  • 2024年にピンチを迎えた運輸業界だが…(写真はイメージ)
    2024年にピンチを迎えた運輸業界だが…(写真はイメージ)
  • (図表)貨物営業用自動車の貨物輸送量の推移(帝国データバンクの作成)
    (図表)貨物営業用自動車の貨物輸送量の推移(帝国データバンクの作成)
  • 2024年にピンチを迎えた運輸業界だが…(写真はイメージ)
  • (図表)貨物営業用自動車の貨物輸送量の推移(帝国データバンクの作成)

経済産業省の試算では、14%も物流が減るはずだったが

   今年4月からトラック・バス・タクシー運転手、医師、建設業などの「働き方改革」を進めるため時間外労働の上限規制の適用がスタートした。

   特に、すべての産業に影響を及ぼす運送業界では「物流の2024年問題」によって「モノが運べなくなる」危機が懸念されていた。経済産業省の試算では、2019年度と比較して2024年度は14.2%輸送力が不足すると指摘されていた。

   ところが、国土交通省の最新輸送量のデータを分析した帝国データバンクによると、貨物営業用自動車の輸送量は2024年4~7月で8.6億トン。前年同期(2023年4~7月は8.3億トン)と比べると3.6%増加しており、過去5年でみても最も高い水準だ【図表】。

   4月から時間外労働の上限規制が適用されているのに、前年より高い輸送量を維持しているのだ。いったいどういうわけか。帝国データバンクでは、

「その裏では、苦しいなかでも、パレット輸送や中継輸送の実施など、企業努力により徐々に輸送の効率化が進んできているといえる」

と、分析している。

企業同士が連携する努力、トラックから船舶、鉄道への切り替え

   J‐CASTニュースBiz編集部は、レポートをまとめた帝国データバンク情報統括部の担当者に話を聞いた。

――輸送量が減ると心配されていたのに、輸送量が増加するとは意外な結果です。その理由は、ズバリ何だと考えていますか。

担当者 貨物輸送の4~7月のデータとなるので、まだ途上の段階ですが、春先ベースでは工事関連や再開発、設備投資などにより物流量が増加していたと考えられます。そのようななか、懸念されていた輸送力の不足という危機的な状況が、各社の企業努力の成果によって回避されたことも大きなポイントです。

各社の輸送効率化や、適正な運賃設定の進展が支えています。さらに、着実に進んでいるデジタルトランスフォーメーションといった技術革新も物流の効率化に貢献しています。

――運輸業界では「トラックの6割は、空気を運んでいる」という言葉があると聞きます。各社は具体的にはどんな輸送効率化の努力を行っているのですか。

担当者 たとえば、パレット輸送。「パレット」と呼ばれる荷役台を活用した輸送方法です。パレットを用いることで、手作業での積み下ろしよりもフォークリフトなどの機械での作業を増やすことで、荷役時間を大幅に削減できます。また、パレットを使用することで、トラック内に効率的に積載できる利点があります。

中継輸送という輸送方法もあります。これは、長距離の運行を複数の運転手で分担するのです。この方法により、ドライバーの負担が軽減されるだけでなく、拘束時間が短くなるため運転手不足の緩和にもつながります。また、これまでは長距離輸送に対応できなかった事業者も対応できるようになり、配送ネットワークの拡大が期待されます。

そのほか、車両の大型化や異なる会社同士の「共同配送」、トラック輸送から船舶や鉄道へ輸送に切り替えていく「モーダルシフト」などの取り組みも行われています。

ファミマとローソン、日本郵便と西濃運輸...ライバル同士が共同運送

――なるほど。企業同士の連携、協働も進んでいるわけですね。そうした取り組みを行っている企業を紹介してください。

担当者 ファミリーマートとローソンは、東北地方の一部地域で両社の商品を同じトラックに混載し、共同で輸送を行っています。また、日本郵便と西濃運輸は、幹線輸送の共同運行に取り組んでいます。

最近では、東京海上ホールディングスやセイノーホールディングスなどが物流コンソーシアムを立ち上げ、複数の企業が協力して輸送の途中で運転手が交代する「中継輸送」の仕組みづくりを進めています。

企業間での輸送連携は、物流の効率化やコスト削減、環境負荷の軽減などの効果が期待されます。

たとえば、共同輸送によってトラックの空積率が改善され、輸送コストの削減につながります。また、複数の企業が協力して運行することで、ドライバーの確保が容易になり、人手不足の解消にも寄与します。さらに、共同輸送によりトラックの走行距離が短縮され、CO2排出量の削減など環境への負荷軽減も期待されます。

企業間での緊密な連携は、今後の物流業界の持続可能な発展にとって重要な要素となるでしょう。

――いいことづくめですね。しかし、帝国データバンクが今年7月に発表した「道路貨物運送倒産動向」を見ると、倒産が最多水準になっています。業界で淘汰が進み、大手による中小の吸収によってさらに効率化したということでしょうか。

担当者 輸送量が増加し、過当競争が進んでいるため、昨今の原油価格の高騰や人手不足など複合的な要因により、優勝劣敗の二極化が生じていると考えられます。ただし、まだ、「淘汰が進み、大手による中小の吸収によってさらに効率化した」状況と言えるまで進展しているわけではないと思います。

運輸業界だけでなく、消費者も変わらないと

――今後の物流業界はどうなるでしょうか。

担当者 依然として燃料費の高騰や深刻な人手不足など、業界全体に厳しい環境が続いています。2024年問題もまだ解決されたわけではありません。さらなる輸送の効率化や自動化を推進することに加え、私たち消費者側の物流に対する意識と行動を変えることも、安定的な物流機能の確保には不可欠でしょう。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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