女性の転職が10年で約5倍に増加し、賃金も上昇していることが人材総合支援サービスのリクルートが2024年11月13日に発表した「女性の転職者リポート」でわかった。
しかも、出産・子育てのブランクがあっても、家事育児で頑張った経験がビジネススキルとして再就職に役立つというのだ。
どうすれば家事育児の能力を企業にアピールできるのか。リクルートの熊本優子さんに話を聞いた。
家事育児経験をビジネススキルと考える企業が増えている
このリポートは、転職支援サービス「リクルートエージェント」(2024年8月~10月調査、対象人数非公表)のデータと実際の転職事例をまとめたもの。
「リクルートエージェント」における女性の転職者数は、2023年度は2013年度からの10年間で5.1倍に増加した。また、転職時に賃金が1割以上増加した女性の割合も30.4%から41.3%に増えた【図表1】。
近年は、アルバイトや派遣の経験しかなく、産育休のブランクがあった女性に対し、家事育児経験をビジネスに転用できると考える企業が、少しずつだが増えている。
たとえば、首都圏の30代女性のケース。
《契約社員として事務職1年、その後産育休で4年間仕事を離れ、IT企業のパート事務職に再就職、2年後に正社員のシステム営業職に昇格。必須条件:1人での子育てのため18時までの勤務。
企業の評価ポイント:意欲の高さとPCスキル。企業情報を非常に深く調べ、もし入社できたら何を勉強したらいいかを自分で考え、ITパスポート取得にチャレンジしていた。その頑張りと行動力が伝わった。年収:約70万円アップ》
信越地域の30代女性のケース。
《中小企業に就職、結婚を機に退職。以来コンビニでパートとして11年勤務。接客コンテストでの入賞経験あり。メーカーの正社員営業職に再就職。必須条件:9時~17時で働けること。
企業の評価ポイント:働く意欲と、明るくムードメーカーになってくれそうな人柄。育児経験から得たマルチタスク能力。年収:約80万円アップ》
たとえば、家事と育児は同時進行で行なうため、子どもの面倒を見ながら買い物リストをつくるなど、マルチタスク対応力が身に付く。
ほかにも「時間管理能力」「コミュニケーション能力」「周囲との連携能力」「課題解決力」などビジネスシーンの生かし方を表にしたのが【図表2】だ。
リクルートのHRエージェントDivision カスタマーサービス統括部長の熊本優子さんはこう指摘する。
「これらは10年前では非常に珍しい事例だったが、人手不足が加速していく中でキャリア採用に変化の兆しが表れている。正規雇用の経験はなくても、自分なりに『頑張ったこと』を棚卸しし、ビジネスに生かせるスキルに言語化することで正社員への転職を実現した事例が生まれている」
企業も、女性の事情に合わせて柔軟に採用しなければ、人材確保が難しい
J‐CASTニュースBiz編集部は、リポートをまとめたリクルートの熊本優子さんにさらに話を聞いた。
――女性が家事や育児経験でつちかった能力を、企業がビジネスシーンで使えるスキルとして評価するようになった背景には何があるのでしょうか。
熊本優子さん 人口減による構造的な人手不足が前提にあります。労働供給制約社会とも言われていますが、企業は従来の採用ターゲットや採用手法では人材を確保することが難しくなっています。
そのため、仕事の業務経験はなくても、働く人のポータブルスキルや人柄、価値観などを見て人材を採用していく必要性が上がってきています。なかには仕事のプロセスや役割を分解し、未経験者でもできるようにすることで、採用ターゲットを柔軟に変化させて人材採用に成功している企業もあります。従来の「ものさし」ではない「スキル」として評価されるポイントになるわけです。
また、働く個人の事情は多様化しています。育児、介護、副業や自身のやりたいことと仕事を両立したいという方が増え、労働時間や勤務場所についての希望がある方が増加しています。企業としては、個々の事情に合わせて条件を柔軟に変更しなければ、人材確保が難しい状況になっています。
自分の「強み」や「スキル」を、最初から無理に探してはダメ
――企業側の意識と同時に、女性側の意識も変化しているのでしょうか。よりキャリア志向が強まったとか、家事育児に専念する期間をブランクと感じなくなったとか。
熊本優子さん まだまだ、正社員以外の経験はブランクだと思われている方が多く、むしろ、自分に自信がなく企業への応募も躊躇される方が多い印象です。
ご自身なりに「頑張ってきたこと」をうかがっていき、我々から「こういう強みがあるのではないでしょうか」とご提案することで、少しずつ自信を付けていただいて転職活動を前向きにしていただけるようになっていくように思います。
――「自分なりに頑張ったことを棚卸しして、言語化する」ことの大切さを強調していますが、具体的にはどう「言語化」して企業にアピールすればいいのでしょうか。
熊本優子さん 「言語化」とは求職者自身が気づき、言葉にできる状態と考えております。たとえば、自分が頑張ってこられた動機は「人の役に立ちたいから」とか、求職者自身が自分らしい言葉で実感を得られる状態です。
その際、いくつか気を付けるといいことがあります。
まず、「強み」や「スキル」を最初から無理に探そうとしないこと。「強み」を探そうとすると「他人よりできること」を考えてしまいがちです。自信を持って言えることが出てこなくなり、結局詰まってしまうことが多いです。
「強み」からいきなり考えるのではなく、日常の仕事や経験で「自分なりに頑張っていること」は何か? その中で自分なりに工夫していることや意識していることは何か? その工夫や頑張りが生きた場面やエピソードがあるか? ...と考えていくといいでしょう。
家事育児の中で、頑張って乗り越えたことを記録しておこう
――なるほど。たしかに自分の「強み」を考えると、力んでしまいますね。
熊本優子さん このプロセスがあれば、ブランクを感じていたり、パートを自分なりに頑張ってきたけど自信のなかったりという方からも、ポータブルスキルが見えてきます。
また、自分ひとりでやるよりも、身近な同僚や友人など第三者と一緒に考えると、より出てきやすいです。対話の中で気づくことが非常に多く、我々がサポートさせていただいた方からは、「育児や家事で経験したことも書類に書けると聞いて、心が軽くなった」とか「自分を肯定できるようになり、未経験チャレンジの励みとなった」という声もいただいております。
――それは、応募書類に書くのですか。
熊本優子さん 職務経歴書はもちろん、面接でも伝えていくことが大切です。その際、単に「コミュニケーション力があります」というだけではなく、そのスキルを身に着けたエピソードや事例、それを仕事の中でどう生かせるかといったところまで伝える必要があります。
――そうすると、現在家事育児で忙しい女性は、将来の転職、再就職に備えて普段から何に気を付けていればよいでしょうか。
熊本優子さん 現状育児をされている方は、日々本当に忙しいと思います。そんな中でも、今頑張っていることで壁になったこと、それをどう乗り越えたかを、少しでも記録しておくといいでしょう。 そういったエピソードの積み上げが、アピールできることにつながります。無理に何か新しいことをする必要はありませんが、世の中で求められそうなスキルを身に着けられそうな時間やタイミングがあれば、少しでもやってみることが大事です。 「学んでいる、学ぶ姿勢がある」ということだけでも、ポジティブな印象でプラスの評価になります。興味があることで、かつ仕事にも役に立ちそうな学びがあれば挑戦してみてはいかがでしょうか。
好きややりがい、どんな自分でありたいかなど目的を持とう
――家事育児中でも、ちょっとした気づき、学びが大切ということですね。転職を目指す女性たちへのエールをお願いします。
熊本優子さん 今、向き合っている仕事や生活の中で、自分がこだわりをもって頑張っていることを1つでも持ち、工夫や改善をし、経験を増やしていくことがとても大事です。
「自分らしく頑張れた経験」が転職の際の武器になります。そして自分らしく働く目的を持つこと、報酬だけなく、好きややりがい、どんな自分でありたいかなどなんでもよいと思います。目的を持つことが新たな一歩につながるはずです。
(J-CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
熊本 優子(くまもと・ゆうこ)
リクルート HRエージェントDivisionカスタマーサービス統括部統括部長
大学卒業後、半導体メーカーで法人営業職。その後リクルートに転職し人材紹介事業の法人営業やキャリアアドバイザー、組織マネジメントに従事。2024年現在、『リクルートエージェント』のキャリアアドバイザー組織を統括。