2024年11月17日の兵庫県知事選は失職した斎藤元彦氏が勝利した。111万3911 票と、2位の稲村和美氏の97万6637 票を13万7274 票も上回る大差の圧勝で、2週間前の本コラムで予想した通りだった。驚くべきは55.65%という投票率で、前回を14.55ポイント上回った。この投票率の引き上げには、SNSでの盛り上がりが後押しし、結果として斎藤氏の勝利にもつながった。
新人ADが「番組は全部私が作った」とインタビューに応じるようなもの
今回の結果に、おねだり・パワハラと斎藤氏を批判してきた既存のマスメディアは面白くないだろう。選挙特番では事前予想も外れ、お通夜状況だった。米大統領選でトランプ氏が当選したときと、なぜか雰囲気が似ていた。
典型的だったのはNHKだ。NHKを糾弾するNHK党党首の立花氏が候補者ながら斎藤氏をアシストしていたためか、他の民放が斎藤氏の当確を出す中で最後まで出さなかった。
ところが、第二ラウンドがあった。PR会社の女社長がSNSではしゃいでしまった。これに対し、斎藤氏は、「SNS戦略の企画立案等は依頼していない 。ポスター制作等法で認められたもののみ」と主張した。
両者には食い違いがあるとし、再び既存マスメディアは斎藤氏が公職選挙法に違反するおそれがあると報じるようになった。選挙で負けた稲村氏を推した左派も復活して盛り上がっている。
筆者はこの件について、当初新人ADが「番組は全部私が作った」と顔出しインタビューに応じたような印象を持った。斎藤氏は総務省官僚だったので、あれほどの素人を企画立案に使うのは不自然だし、公選法はその都度総務省に確認して選挙するのが通例であることも知っているはずで、金をいくら払ったかがポイントになると予想した。
すぐに払った金は70万円余りと明らかにされた。筆者は、実際の選挙ではその都度総務省に具体的に問い合わせて対応するのが通例で、斎藤氏側がそれを怠っていれば問題だが、その手順さえ踏んでいれば、捜査当局もそう簡単に捜査というわけにはいかないだろうとみている。
公選法議論するよりも刑事告発して行方見守る方が生産的
こうした案件は、テレビのワイドショーで素人が公選法を議論するより、実際に刑事告発するほうが、より意味があり明快だ。それを当局が受理するかどうか、さらに受理した後立件するかどうかをみたほうが生産的だ。
なお、米国大統領選でトランプ氏が勝利したので、民意を尊重し現職大統領を起訴しないという長年の司法省の方針に基づき各種事件の起訴取り下げが相次いでいる。日本にはこうした慣行はないようだ。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。