「営業の仕事にはやりがいを感じているが、先々のキャリアを考えると不安がある」
「営業を続けていても、専門スキルが身に付かないのではないか」
「営業職が転職を考えた場合、どんな選択肢があるんだろうか」
20~30代の営業職のそんな「リアルな悩み」が、リクルートエージェントに寄せられます。しかし、実際のところ、営業を経験してきた方々は多様なスキルが培っているものです。そしてさらに、それを活かし、キャリアを発展させている方は大勢います。
具体的には、どんな点が評価されるのか。20代で転職したAさんの事例を紹介しましょう。
リクルートエージェントでキャリアアドバイザーをつとめる、矢藤良介が解説していきます。
公務員→広告営業職→DX領域の営業職へ
もともと地方公務員として働いていたAさんは20代半ばの頃、「将来のキャリアの選択肢をもっと広げたい」と考えるようになりました。
今後広く通用するような「専門性」を身に着けたいと考え、民間企業でも評価されるようなスキルをまずは身に着けたいとお考えになり、「無形商材の営業」に注目しました。
ご自身の周りで転職を活動をされた同僚からも、
「公務員は言われたことだけをやっていると思われてしまって、苦戦している」
という話を聞いて危機感を覚えていたようです。
Aさんが無形商材の営業を選んだのは、まずビジネスパーソンとしての足腰を鍛えるために難しいことに挑戦したいという気持ちからでした。無形商材の方が、付加価値を感じてもらう難易度が高いのでは、という考えもありました。
また、まだこれからどういうキャリアを歩んでいくか、決めきっていたわけでもありませんでした。そのため、いきなり深い製品知識や業界知識が必要な有形営業を選ぶよりも、さまざまな業界との関係を持てるような商材を扱い、幅広い経験をしたいというのがねらいです。
そのためまずは形がない商材を扱うことで、顧客に応じた課題分析・提案力を身に付けようと考えたのです。そこで、未経験OKの営業求人を探し、店舗向けの広告営業に転職しました。
そこから2年間、広告営業として店舗向けにサイト掲載や予約システムの導入提案の経験を積みました。営業未経験から、
・定量思考:数字で現状を把握して、週次レベルでPDCAを回す
・関係構築力:飛び込み営業も経験し、短時間でも相手に伝わるようなコミュニケーションで、関係性を築く
というスキルを磨きました。
社内でも表彰されるなど実績もでてきたところで、再び転職活動を行いました。
この時は、業界として伸びており今後も需要が見込まれ、キャリアを発展させやすいと考えた「IT業界」にチャレンジしました。
複数企業で選考が進み、大手企業グループのITソリューション企業の営業職に採用されました。
地方公務員時代の経験も活かして、公共団体向けのDX(デジタルトランスフォーメーション)支援を担い、ITを活用したBtoB領域の課題解決スキルを磨いています。
行政の事情もわかるからこそ、自分が支援する価値がある――。そんな思いで、他の人にはないキャリアを築き、強みを生かしていきたいというお気持ちがありました。
ポータブルスキルは多様な分野や職種で活かせる
そんなAさんが選考でアピールし、企業から評価されたのは次のポイントです。
●数値分析によって課題を捉え、解決へ導く「定量思考」を実行できること
●PDCAサイクル(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)を高速で回すことで行動改善を図り、安定的に業績達成できていること
書類応募の段階で、企画職も通過しました。営業職で培った「定量思考」「PDCAを回す力」は、企画職としても期待できると評価されたのです。
「営業職は専門性を養えない」ととらえる方は多いかもしれませんが、営業だからこそ身に着くポータブルスキル(業界・職種問わず持ち運びできるスキル)は、多様な分野や職種で活かせる可能性があります。
営業職からの「異職種」への転職としては、企画系職種のほか、マーケティングに近いポジションとしてWebディレクションなどの選択肢もあり得ます。
また、人材採用に力を入れる企業では、求職者とコミュニケーションをとって考えやニーズを引き出す力や自社の魅力をプレゼンする力に期待し、営業経験者を採用担当者として迎えるケースもあります。採用からスタートし、人事としてのキャリア構築を目指す方もいます。
この続きは<「営業職は専門性を養えない」は本当か 転職の専門家が解説...営業で培うスキルはこれだけ役立つ(2)>で解説していきます。
【プロフィール】
キャリアアドバイザー 矢藤 良介
地方公務員(市役所)を経て2021年にリクルートに入社。以来キャリアアドバイザーとして様々な業界・職種の求職者の転職を支援。