2024年のデミング賞特別功労・実践賞の一人にインドのジャヤハルラール・ネルー大学元教授プレム・モトワニ博士が選ばれ、11月13日に東京の経団連会館で授賞式が行われた。
モトワニ博士は日本の近代化研究が専門だが、日本経済・日本型経営の研究を進めるなかで、インドの産業界こそ日本型経営に学ぶ点が大きいとの考えに至る。インドの多くの有力企業に「日本型経営」を助言してきた。
品質管理の専門家、統計学者デミング博士の業績を記念した賞
「日本の産業界は米国に学ぶとき、日本社会に合わせるように修正して取り入れてきた。インドは米国から直接学ぶより、日本が実践したやり方を学んだ方が効果的だ」というのが博士の持論である。
とくに生産技術、部品製造の質は日本が今も世界一であり、米国のヒット商品の多くの部品は日本製であることを指摘する。
インドの産業界の課題は、ここ35年間の製造業のGDP構成比が15%で横ばい。原材料、中間製品などを輸入に頼り、貿易赤字が続いている。世界の製造業におけるインドのシェアはたったの2.87%、中国から程遠いと嘆く。
デミング賞は日本科学技術連盟によって運営されている。米国の品質管理の専門家である統計学者デミング博士の業績を記念して1951年に創設された権威ある賞である。毎年、品質管理に優れた業績を残した世界の企業、その経営者に授与されてきた。
博士によれば、米国の企業では、技術が個人の能力によるところが大きく、チームや企業としての継続性が弱い。日本の終身雇用制、年功序列、ボトムアップに学ぶところもあるという。インドの自動車工業では90%の労働力が非正規雇用である。
外国人への日本語教育の専門家としても知られる親日家
インドで日本型経営を続けるのは、オーナーが日本型経営ひいきの大企業だ。一方、経営者がよく変わる企業、とくに欧米系企業出身者は、無駄を洗い出して継続的に改善していくことや工程管理による効率化という思考が希薄だという。生涯教育や少人数によるチームの力を引き出す教育が活用されないという。
大学教授時代は、休日を利用して企業の助言をやってきたが、5年前に退職、日本型経営のアドバイザーを本業としてインドの企業を走り回っている。損保業界など日本とインド企業の橋渡しもやってきた。
コロナで外に出にくいときに「BECOMING WORLD CLASS Lesson from Japan」を執筆、2021年に出版された。この「日本型経営に学ぶ」出版が今回の受賞にもつながっている。
外国人への日本語教育の専門家としても知られ、英語で日本語を教える教科書のほか、「日英略語・略称辞典」、「日常外来語用法辞典」(丸善出版)という日本人では思いつかない辞書を作り上げた。
親日家として知られるが、日本とインドの経済関係を強くするには、まず、政府間の関係がもっと親しくなるべきだという。