「危険運転」で裁けず刑が軽い「過失運転」になる理不尽 時速194キロ暴走、飲酒、逆走でも

   常軌を逸したスピード走行、飲酒運転、一方通行を逆走――。自動車の運転で、交通ルールを無視した悪質な行為で重大な事故を引き起こし、相手を死傷させるケースがある。

   故意による運転が原因なら、より刑が重い「危険運転致死傷」の罪で裁かれるべきだと思う人はいるだろう。だが実際は、適用が見送られて「過失運転致死傷」で立件される場合が少なくない。常識外れの運転でも「危険」な運転ではなく、なぜ「過失」だとされてしまうのか。

  • 時速194キロが「危険運転」ではないのか
    時速194キロが「危険運転」ではないのか
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「過失」最大で懲役7年、「危険」は20年

   大分市で2021年、時速194キロで走行していた車による事故が起きた。法定速度60キロの3倍超の猛スピードで交差点に進入、右折車と衝突し、その車を運転していた男性を死亡させた。

   大分地検は当初、事故を起こした男を自動車運転処罰法違反(過失運転致死)で在宅起訴した。だが亡くなった男性の遺族側は危険運転致死への訴因変更を求めて署名活動を行い、地検に提出。その後、地検が大分地裁へ変更を請求し、認められた経緯がある。そして初公判が、24年11月5日に始まった。

   過失運転致死傷の罪は、法定刑の上限が懲役7年。一方、危険運転致死傷の罪だと、同20年になる。

   危険運転致死傷については、自動車運転処罰法第2条に書かれている。適用される要件として、「アルコール又は薬物の影響により正常な運転が困難な状態で自動車を走行させる行為」「その進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」など8項目が掲げられている。

   法定速度60キロのところを時速194キロで走行となれば、「運転の制御が困難な高速度ではないか」と思うかもしれない。ただ条文には、具体的な速度が書かれていない。

   11月5日付の読売新聞オンラインの記事によると、裁判で弁護側が、被告が運転していた車は「車線を逸脱したり、ふらついたりすることはなく真っすぐ走れていた」と主張した。

   検察側が挙げたもう一つの適用要件である、妨害する目的で走行中の車に接近したかどうかも、弁護側は「他の車両の通行を妨げることを積極的に意図しておらず、自身の生命の危険と引き換えにしても構わないとの覚悟で運転していたわけでもない」として、過失運転致死を訴えたという。

危険運転の「基準」検討

   埼玉県川口市では24年9月、飲酒運転のうえ一方通行を無視して逆走した車が猛スピードで乗用車と衝突し、男性を死亡させる事故があった。運転していたのは、当時18歳の中国籍の男。映像を見る限り、かなり高速で走行している様子が分かる。100キロ超とも言われている。

   さいたま地検は男を、過失運転致死罪などで家庭裁判所に送った。飲酒、逆走、常軌を逸する走行速度......これでも、なぜ危険運転致死の罪には問えないのか。

   10月18日付の朝日新聞デジタルによると、さいたま地検の判断はこうだ。「危険運転致死罪には、一定の条件に該当する自動車のみに規制対象を限定した道路には適用しないという規定がある。今回の現場の一方通行規制は、二輪車が除外されていて、この規定に当てはまる」。

   23年に栃木県宇都宮市で起きた事故も、先述の大分市のケースと似た動きとなっている。時速160キロ超のスピードで運転していた車がバイクに追突し、バイクに乗っていた男性を死亡させた。

   運転していた男は過失運転致死の罪で起訴されたが、事故で亡くなった男性の遺族が起訴内容変更を検察に求め、署名活動を実施。その結果、宇都宮地検が危険運転致死罪への訴因変更請求を行ったのだ。

   このように、危険運転致死の罪に問うには、適用へのハードルの高さがしばしば問題視されてきた。法務省では24年2月から有識者による検討会を開催。11月13日には、とりまとめ案が示された。飲酒運転や速度超過については数値基準を設ける意見が出された。今後、最終の報告書がまとめられ、法務省に提出される。

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