「時間制約の壁」が、男女を問わず働く人すべての課題に
――いろいろ複雑ですね。ズバリ聞きますが、どうしたら年収の壁問題は解決しますか。女性が思う存分に生き生きと働けるようになるにはどうしたらよいでしょうか。
川上敬太郎さん 扶養枠という制度が既に社会の中に浸透している以上、制度変更してもしなくても、どこかに歪みは生じてしまいます。残念ながら、誰もがスッキリと納得がいく形で解決することはできないと思います。
もし扶養枠という考え方をなくせば、年収の壁自体はなくなります。年収の壁をめぐる制度は複雑怪奇で、そもそも正確にルールを把握すること自体が難しい「制度理解の壁」が生じているのが現状です。扶養枠をなくすという方法は1つの有力な選択肢なのだと思います。
しかし、扶養枠は長年人々の生活の中に浸透し、人生設計に組み込まれています。また、働きたくても働くことができない事情を抱えている人もいます。もし扶養枠をなくす方向へと舵を切るのなら、それらの事情に最大限配慮し、激変緩和措置を含め、長い年月をかけて変えていく必要があるでしょう。
――う~む。国民民主は「年内に目途をつけたい」などと主張していますが、簡単にはいかないということですね。
川上敬太郎さん ただ、扶養枠に関しては、私が研究顧問を務めるしゅふJOB総研の調査では、時給2000円を超える仕事に就いた場合は9割の人が扶養を外すと回答しています。世の中に時給2000円以上の求人が増えるほど、扶養枠自体が不要になっていくはずです。
主婦・主夫層の多くは、豊富な実務経験を持っています。短時間でもそれらの経験やスキルを活かして成果を出せる仕事はたくさん眠っています。
職場側が「高時給の仕事はフルタイム」「正社員の仕事はフルタイム」という先入観を拭い去ることで、短時間かつ時給2000円以上の仕事を切り出せる余地は大いにあります。それは採用難に悩む職場側にとっても、有益な取り組みであるはずです。
――年収の壁について、特に強調しておきたいことがありますか。
川上敬太郎さん 年収の壁は厄介な壁ですが、制度が変わって、もしその壁が取り払われたとしても「時間制約の壁」はなくなりません。さらに現在、男性の育休取得率上昇に象徴されるように、仕事と家庭の両立は女性だけの悩みではなくなりつつあります。
性別問わず誰もが家庭を切り盛りする主体となる一億総しゅふ(主婦・主夫)化が進んでいきます。つまり、「時間制約の壁」は働く人すべての課題になってきたということです。
その壁を乗り越えるヒントが、自身の裁量で時間や場所等を決められることにあります。テレワークやフレックス勤務などを充実させ、時間と場所を自分で決められる職場環境を整備することが、より重要になってくるのではないでしょうか。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)