学習塾の倒産、過去最多 優秀講師の引き抜き、オンライン授業、業界再編激化...子どもをどこで学ばせたら?

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   学習塾の倒産ラッシュが加速している。

   帝国データバンクが2024年11月10日に発表した「学習塾の倒産動向(2024年1~10月)」によると、過去最多水準のペースだ。

   少子化によって生徒数の減少や大手との競争が激化しているためだ。どんな塾が生き残るのか。調査担当者に聞いた。

  • 学習塾で勉強する小学生
    学習塾で勉強する小学生
  • (図表)学習塾の倒産件数と負債総額の推移(帝国データバンク作成)
    (図表)学習塾の倒産件数と負債総額の推移(帝国データバンク作成)
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  • (図表)学習塾の倒産件数と負債総額の推移(帝国データバンク作成)

西日本で500校を展開した学習塾チェーンが...

   帝国データバンクによると、2024年1~10月の学習塾の倒産件数(負債1000万円以上、法的整理)は32件で、前年同期(25件)比で28.0%増加。このままのペースで推移すると、通年の倒産件数は過去最多の2019年(39件)とほぼ同水準になる見通しだ【図表】。

   1億円未満の小規模倒産が大半だが、今年の負債額トップは、福岡県の個別指導塾スタンダードの約60億3830万円。小中学生を対象とした学習塾の運営を手がけ、ピーク時は西日本を中心に全国で約500校展開。1教室あたりの規模は最大70人程度で生徒の学習レベルに応じたオーダーメイドの学習カリキュラムや1対2を基本とする少人数での教育体制をとっていた。

   入会金や解約違約金がない低料金システムがファミリー層に人気で、2019年4月期には年収入高約82億を計上した。しかし、コロナ禍に対面授業が制限され、多くの不採算校が発生。倒産に追い込まれた。

   学習塾の主な利用層である6歳から18歳の人口が2013年(1488万人)から2023年(1351万人)の10年間で約9%減少。授業料収入が激減し、倒産が増加している。中堅クラスの学習塾では教室など設備投資のために借入金が膨らむケースもあり、今後も少子化の深刻化で倒産リスクは拡大する公算が大きい。

   また、負債1億円以上の学習塾では、法的整理前に事業を他社に譲渡するケースも目立つ。今後は倒産とともに事業譲渡によって業界再編が加速、さらに競争が激しくなる可能性がある。

関東の老舗「茗渓塾」「茗渓予備校」運営会社も倒産

   J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた帝国データバンク情報統括部の橋本伊織さんに話を聞いた。

――学習塾の倒産が加速する理由で、ズバリ何が一番大きいのでしょうか。少子化で生徒数が減少していると指摘していますが、一方では新規参入が多いというデータもあります。

市場規模が縮小しているのに、大手を含めて競争が激化しているのは、それだけ学習塾には儲かる理由があるのでしょうか。

橋本伊織さん 一番は少子化の影響です。高所得層では、子ども1人当たりへの教育投資を拡大する傾向がありますが、最近の傾向として、その他多くの家庭では物価高による生活コスト上昇から、教育費を抑制する動きもあります。

そんななかで少なくなった生徒の獲得競争となった場合、データやノウハウ、実績が豊富な大手に軍配が上がる傾向にあります。

たしかに比較的参入のハードルが低い業種のため、新規参入が多い可能性はあります。しかし、同様に大手も新規参入しますから、大手との競争で見込み通りに生徒を集められないと、開業費用が重荷となって倒産するケースもあります。

――なるほど。甘くはないわけですね。福岡の個別指導塾スタンダード以外の倒産ではどんなケースがありますか。

橋本伊織さん 今年の負債額2番目では教育春秋社(東京都渋谷区)の約10億円が続きます。1971年設立で、小中高校生向けの「茗渓塾」や大学受験生向けの「茗渓予備校」の屋号で学習塾・予備校を運営するほか、医学部専門予備校も運営、関東に約20校展開していました。

しかし、同業者との競合激化で生徒数が減少し、赤字に転落。多額の租税公課滞納も発生し、弁済に向けた交渉を行っていましたが、折り合いがつかずスポンサー探しに移行。今年春に同業者に事業を譲渡したうえで倒産となりました。

九州地方の中小事業者の事例では、同業者との競争に加え、希望校への合格者が減ったこともあって生徒数が減少。採算が悪化し、倒産しています。

スポーツクラブと提携、社会人教育に進出する塾も

――やはり生徒数の減少と同業者との競争激化が大きいですね。ところで、私は現在70代ですが、孫が通っている塾の優秀な先生がほかに引き抜かれて騒ぎになっています。そういった先生の人材獲得競争も背景にあるのでしょうか。

また最近、オンライン教育の塾や無料配信の学習コンテンツを利用する子どもが増えているそうです。新時代の塾のあり方の影響もありますか。

橋本伊織さん 人材獲得の影響はあると考えられます。まず、教育業界全体に人手不足感があり、特に非正社員は帝国データバンクの調査でも、学習塾が属する教育サービスでは、2023年7月は33.3%の企業が、2024年7月は42.6%の企業が人手不足感を感じており、その割合は上昇しています。

また、大手企業のほうが社内教育に力を入れており、一般的に賃上げ余力もあるので優秀な講師が大手に集中します。進学実績のほか、タブレットなどを活用したコロナ禍以降の教育DXへの対応という観点でみても、人材確保・教育は学習塾経営で重要な要素になっています。

ご指摘のように、オンライン塾や無料コンテンツとの競争が要因の倒産事例もあります。

――今後の学習塾業界はどうなるでしょうか。どういう塾が生き残ることができますか。

橋本伊織さん 中堅・大手で業界再編が進む可能性があります。教育春秋社のように、倒産前に事業譲渡されるケースが散見されるほか、現状では経営に懸念点がみられない地場の有力塾でも、独自性を維持しつつコスト削減や相乗効果を期待して、コロナ禍前後のタイミングで大手塾の系列となっているケースもあります。

スポーツクラブなどの異業種と業務提携を行う例もあります。また、社会人教育のリスキリングに政府が力を入れて、今後のトレンドとなることが考えられます。大手・中堅クラスであれば、「教育」という学習塾の武器をもって、新たな需要を取り込むことは可能でしょう。

小さな塾は、地域の子どもにあった独自のカリキュラムを

――小規模塾はどうすればいいのでしょうか。

橋本伊織さん 子どもの学力に関係なく、塾に行かせて教育投資を行う親は少なくありません。小規模塾では、学区内の教育環境に密着・特化することで、地域の子どもたちにあった独自のカリキュラムを作って差別化を図れば、生き残ることは可能でしょう。

大手中堅小規模、それぞれの塾には今の環境を分析した思い切った経営改革が必要と考えます。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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