「キャリア採用できない会社は行き詰まる」 新卒至上主義の大手企業が業績悪化の危機に

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   就活生の人気を集め、新卒中心の採用活動を行ってきた大手企業の中から、キャリア採用を積極化する会社が出始めている。

   新しい経営戦略を実行するにあたり、自社になかったスキルや経験を持った人材を外部から取り込む必要があるからだ。

   一方で、キャリア採用を避けて引き続き新卒採用に絞る企業もあり、特に旧東証一部を中心とした上場企業に多いという。ある人材企業の幹部は「少子化の影響は予想以上。早くキャリア採用に取り掛からないと将来経営が行き詰まるかもしれない」と懸念する。

  • キャリア採用の動向とは
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新卒を超えた富士通のキャリア採用数

   2023年度のキャリア採用数が新卒採用と並んだ。そうコーポレートサイトで明かしたのはNECだ。2017年度は55人だったキャリア採用は、2020年度に370人ほどに増え、2023年度には600人に達する。

   NECは2019年からDXコンサルティングの部署を新たに立ち上げ、経験者を積極採用するとともに業績を急伸させた。特に効果が出たのは収益性で、2019年3月期には2.0%だった売上収益営業利益率は、2024年3月期に5.4%にまで改善している。

   このNECを上回るのが、富士通のキャリア採用だ。新卒採用は2024年の実績見込みと2025年度の計画数がいずれも800人程度だが、キャリア採用は2023年度の実績見込みが1000人、2024年度の計画数は2000人以上としている。

   富士通は、2023年5月に発表した中期経営計画における「事業モデルと事業ポートフォリオの変革」を推進するために、キャリア採用でのDXコンサルタント人材の拡充を図っている。売上収益営業利益率は、2015年3月期の3.8%から2023年3月期には9.0%まで改善した(2024年3月期は4.3%)。

   キャリア採用を積極化する企業がある一方で、依然として新卒採用にこだわる企業もある。ある人材会社で大手企業の採用支援に携わるAさんは「JTC(伝統的な日本企業)にそういうところが多い」として、その理由を説明する。

「日本の18歳人口は、1992年度の約205万人をピークに急降下し、2023年度には110万人を割り込んでいます。このため、新卒採用は苦労していると思われがちですが、大学進学率が26.4%から57.7%まで上昇したことで、大卒者は約40万人から57万人超まで急増しました。なので、知名度が高く社会的信用もある大企業では、大卒者を中心とした新卒採用で人員が十分確保できていたのです」

年功序列の「給与テーブル」がボトルネックに

   しかし、この構造はまもなく限界を迎えるとAさんは見ている。大学進学率がこれ以上高くなることは考えにくく、一方で18歳人口の減少はさらに加速していくからだ。

「現在でも、大卒生に占める保健系やスポーツ科学などの卒業生の割合が高まり、ホワイトカラーの採用ターゲットとなる卒業生は減っているのが現実です。進学率の上昇による質の問題を指摘する人もおり、新卒採用をこれ以上増やすのは難しいと考える採用担当者は少なくありません。とはいえ、中途採用を簡単に増やせるわけでもなく、密かに悩みを募らせているわけです」

   Aさんによると「JTCがキャリア採用に苦労する理由」は、待遇面の問題が最も大きいという。日本の伝統的大企業は終身雇用・年功序列を前提に、新卒から少しずつ昇格・昇給するための細かな「給与テーブル」を設けている。

   中途採用を行うためには、そのテーブルのどの等級として扱うかが問題になる。通常は学歴や年齢から、既存社員の「年次」に合わせることになるが、他社で活躍してきた専門性の高い人材にとって、あまりにも低い待遇になることが多い。

「JTCは将来は上がっていくという見込みの中で働いているので、若手から中堅のうちは給与が低く抑えられています。一方の外資系コンサル会社などは、バリバリ働く若手にはずっと高い給与を提示してくるし、自社株を報酬として付与する制度もあって、まったく歯が立ちません」

   かといって、給与テーブルをそのままに、中途入社組だけを厚遇しようとすれば「これまで我慢して勤めてきたのが馬鹿らしくなる」と既存社員のモチベーションを下げてしまう。

   このようなボトルネックを解消するために、NECや富士通などキャリア採用を積極化する会社では、職責の重さに応じて処遇する「ジョブ型人材マネジメント」に移行している。

   年功的な給与テーブルがなくなれば、中途入社組にも年齢に関係なく専門性に応じた給与を支払うことができる。

「キャリア採用は一朝一夕にはできません」

   キャリア採用ができないことは、安定した採用者数を確保できないこと以外にも懸念点がある。それは、事業環境の変化に合わない、古びた事業構造の変革に必要な人材を迅速に確保できない問題を引き起こすのだ。既存社員のリスキリング(学び直し)も簡単ではない。

   しかし、キャリア採用を進めるためには、採用ノウハウ以外にも、経営戦略を立て直したり人事制度を見直したり、働き方の柔軟性、福利厚生、ひいては職場の組織文化などを含め、さまざまな要素を変革しなければならない。

   Aさんは「正直、ちょっと対応が難しそうな企業はありますね」と明かし、そのような企業はいずれ業績を悪化させるのでは、と懸念する。

「NECは一時は企業の存続が真剣に危ぶまれるような状況にありましたが、生き残りを賭けた経営戦略の立て直しを行い、実行に移すことで業績を改善させ株価も上昇しました。採用計画だけ変えても人は集まりません。事業戦略を変え、それにあわせて新卒一括採用、年功序列、終身雇用を前提としたさまざまな制度や文化を変えなければ、キャリア採用は一朝一夕にはできません」

   特に大量採用で人員がダブついていた「バブル入社組」の最後の世代が、あと数年で60歳を迎える。定年退職の穴を新卒採用でそのまま埋める必要はないものの、退職スピードとのアンバランスで大手上場企業でも人手不足の危機に直面する会社は出てくるのではないか、とAさんは見ている。

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