転職者の採用にもAI(人工知能)の導入が進んでいるが、20代転職者の半数以上が「AIによる採用プロセス」を歓迎しているという。
就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が発表した「中途採用・転職活動の定点調査(2024年7月~9月)」によると、「感情でなく、公平に評価してくれそう」というのがその理由だ。
70代ベテラン記者は納得できない。やはり、人間に評価されて入社したくないのか? 調査したマイナビの朝比奈あかりさんに聞くと――。
20代の5割超、「採用にAI導入企業、入社意欲高まる」
マイナビの調査(2024年10月1日~6日)は、全国20~50代の正社員のうち調査期間の前後3か月に転職活動をしたか、転職活動を始める予定の1385人と、企業の中途採用担当者849人が対象。
転職活動をした、またはこれから行う人に「企業が採用活動でAIを使うことは、応募/入社意欲にどう影響するか」を聞いた。最も多いのは「変わらない」(54.5%)、次いで「応募/入社意欲が高まる」(37.0%)となり、その割合は20代が突出して高く半数超(53.8%)に達した【図表1】。
その理由で最も多かったのが「感情でなく公平に評価してくれそう」(55.3%)で、次に「興味がある」(53.5%)、「新しい施策/技術を導入していることに好感が持てる」(52.2%)だった【図表2】。
転職者は、採用活動時にAIが公平に評価してくれることに期待を寄せており、特に20代は新しい施策・技術を導入している企業の将来性などに魅力を感じているようだ。
一方、企業の採用担当者に「採用活動でAIツールを活用しているか」を聞くと、「既に活用している」は2割(19.6%)。従業員が多いほど前向きで、301人以上では、「既に活用している」が3割を超え(32.0%)、AIツールの導入が進んでいる【図表3】。
具体的な活用場面は、「適性検査」や「書類選考」など各段階で使っており、最後の「採用判定」(45.8%)でも半数近くが活用していた【図表4】。
ベテラン記者「人生の一大事をAI面接官に決めてもらいたいのか」
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめたマイナビ・キャリアリサーチラボ研究員の朝比奈あかりさんに話を聞いた。
――企業が採用活動にAIを使うことに関して、歓迎する割合が20代では突出して高いですね。40~50代の2倍近いです。この理由は何なのでしょうか?
朝比奈あかりさん 生成AIの利用経験の差が、理由の1つとと考えています。 マイナビの調査では、2025年卒の大学生(現在4年生)の生成AI利用率は6割を超え、昨年より20ポイント以上増加しています。大学生の間で急速に普及していることがうかがえます。
就職活動の場面と就職活動以外の場面の両方に使っている人が3割を超えています。ですから、普段から使い慣れていて、その流れで就職活動にも利用していると推察しています。大学生にとっては、AIは身近存在になりつつあるようです。
その流れが転職活動にも顕著に表れているのです。転職活動中の20~50代に「転職活動時に生成AIを活用した経験」を聞くと、20代では3割以上が転職活動でも使っていました。つまり、自分自身が使って利便性を感じているわけですから、企業側が採用活動に使うことに関して、上の年代よりも抵抗がない可能性があります。
――う~む。しかし、私個人は70代で、就職時や転職時にはしっかりした書類選考や面接試験を何度も受け、面接官と生身の人間同士として対峙してアピールした体験があります。
人生の一大事である転職できるかどうかの判断をAIに任せたいという考え方が、どうも理解できないのですが。
朝比奈あかりさん 調査結果で一番多かった回答は、「感情ではなく、公平に評価してくれそう」でした。つまり、若い世代では「AIの公平性」にポジティブな感情を抱いている人が半数以上おり、多数派だということです。
ただ、多数派ではあるものの、全員が好意的にとらえているわけではないことに注意が必要です。
「AIでなく、人間に評価されたい」という若者も
――どういうことでしょうか。
朝比奈あかりさん 調査では、中途採用でAIツールを使う企業に対して、逆に「応募/入社意欲が下がる」と回答した人にも、その理由を聞いています。そう答えた人は、全体の1割以下ですが、トップの理由は「信頼度が低い」でした。
また、ご指摘のように「(AIではなく)人に評価されたい」という回答も2番目に多かったです。さらに「AIに評価されることは緊張しそう」と人もいました。
――少数派とはいえ、個人的には共感できる回答ですね。
朝比奈あかりさん AIツールには複数のメリットがある一方で、「信頼度への不安」は存在しており、取り扱いには十分な注意が必要だと考えられます。AIツールを扱う際には、使われているデータセットやメカニズムなど、信頼性や透明性が担保されている必要があるでしょう。
また、転職は個人にとって人生の転機ともいえるので、企業が採用の際にどのようなAIツールを使っているのか、知る権利があります。個人、特に若手は「企業が採用活動でAIを使うこと」に対して肯定的な傾向があるため、企業による積極的な情報開示は、企業・個人双方にとってのメリットとなると考えています。
企業の人事部門の人手不足が進み、AI活用が加速
――なるほど。ところで、転職者の採用活動にAIツール活用する企業が増えた理由は何でしょうか。
朝比奈あかりさん 積極的に活用している企業に理由を聞くと、トップは「業務効率が改善できた」です。企業の人手不足感が高まっているが背景にあり、従業員規模が大きいほど採用者数が増えますから、業務効率化が重要視されています。
多くの企業では、人事部門はいまだにサポート的な立ち位置にとらえられていることが原因で、人員不足や予算不足に陥りがちです。最も時間がかかる作業をAIで自動化できれば、人事の少数精鋭化につながります。
――具体的にはどういう場面で活用するのですか。やはり、書類審査の段階でAIのチェックが入ったり、まさか、最後にAIが面接したりするのでしょうか。
朝比奈あかりさん 活用場面で最も多いのは「適性検査」です。企業はAIを活用して自社にマッチした人材を見極めているようです。採用段階でのAI活用については、さまざまなツールが開発され、自社開発も行われているため一概には言えません。
一般的には自社の雰囲気や、現在求めている人材の要件などをあらかじめAIに学習させておき、求職者が自社にマッチしているか、書類選考や適性検査、面接の結果を総合的に判断するものと思われます。
AIが直接面接するのではなく、現状は、選考におけるサポート的なツールとして利用されているケースが多いと考えます。
AIが個性的な人間を排除し、画一的な集団になる恐れも
――転職者の採用をAIツールが使うことに関して、問題点や課題はないのでしょうか。
朝比奈あかりさん これまで述べたように効率化のメリットは大きいですが、一方でデメリットも指摘されています。データの正確性・信頼性の問題。もう1つは画一的な集団になる恐れがあること。
組織をブレークスルーするような個性的で創造的な人間は、人間的な要素や情報を考慮できないAIによって書類選考で除外され、組織の多様性が大きく損なわれる恐れがあります。
現状、候補者を網羅的な視点で評価できるAIの登場は難しいです。そもそも転職者の採用は、組織を活性化するためにあります。企業はAIを活用する前に、人間的なプロセスを追加する手立てが必要になると考えます。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
朝比奈 あかり(あさひな・あかり)
株式会社マイナビ社長室 キャリアリサーチ統括部
キャリアリサーチラボ研究員
2016年中途入社、「マイナビ転職」の求人情報や採用支援ツールの制作に携わる経験を経て2020年に現職へ。
専門・研究分野:中途採用領域全般、正社員の働き方、転職と賃金の関わり、キャリア自律など。