超高齢化社会の現代、最期まで自宅で過ごしたいと願う人にとって頼みの綱といえる「訪問介護」がピンチを迎えている。
東京商工リサーチが2024年11月7日に発表した「2024年1~10月『老人福祉・介護事業』の倒産調査」によると、過去最多の倒産ラッシュだ。
このままでは全国に「介護難民」が発生すると調査担当者は警鐘を鳴らしている。
今年4月から訪問介護の基本報酬が引き下げられた影響か?
訪問介護は、高齢者の自宅をヘルパーが訪ねて入浴、排泄、食事などの介助を行う「身体介護」や、掃除、洗濯、調理、買物代行といった「生活援助」のサービスを行うサービスなどがある。サービス提供内容によって、事業所に支払われる基本報酬が異なる。
国の制度改定によって2024年4月から介護報酬全体は1.59%引き上げられたが、訪問介護の基本報酬は平均で2~3%引き下げられた。厚生労働省は引き下げの根拠として、訪問介護事業者の利益率が他サービスの平均を上回ることを挙げていた。
しかし、実態はかなり厳しかったようだ。
東京商工リサーチの調査は、負債1000万円以上の「老人福祉・介護事業」を対象に集計。介護事業者の倒産が、2024年1~10月で145件発生した。これまで年間最多だった2023年の143件を上回り、2か月残して過去最多を記録した【図表】。
なかでも、訪問介護の倒産件数上昇が著しい。すでに72件に達し、過去最多だった2023年年間の67件を抜いた【図表】。
訪問介護は1軒1軒クルマで回るため、深刻なヘルパー不足と燃料代などの運営コスト上昇に加え、早くも介護報酬マイナス改定の影響が出ている可能性がある。
東京商工リサーチでは、
「介護業界は、コロナ禍前から人手不足に悩まされ、さらに大手事業者や大手異業種の参入で競争が激化した。コロナ関連の資金繰り支援で倒産を一時的に回避しても、効果が薄れた2022年以降は人手不足、物価高が重なり、倒産の増勢が強まっている。効率化が進む大手事業者と、過小資本の小・零細事業者は格差が広がっている」
と指摘している。
一生懸命勉強して資格を取っても、最低賃金並みの給与
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた東京商工リサーチ情報部の担当者に話を聞いた。
――訪問介護の倒産の過去最多になった背景は、ズバリ何が一番大きいと思いますか? 今年4月の基本報酬のマイナス改定でしょうか。
担当者 マイナス改定の影響が出始めたのは今年夏頃からで、マイナス改定が10月までの倒産増の主要因ではないと考えます。ただ、経営者の一部で、マイナス改定によって先行きが見通せなくなり、事業存続をあきらめるケースが出てきてもおかしくありません。
主な要因は、ヘルパー不足とヘルパーの高齢化、燃料高騰などの物価高、そして、コロナ禍の利用者減に伴う経営へのダメージが大きかったと思います。
――しかし、4月に始まったばかりのマイナス改定の影響がもう出ているとすれば、来年以降はもっとひどい状態が予想されますね。
担当者 マイナス改定は、これから影響が本格化すると思います。報酬を増やすために「生活援助」から、より報酬が高い「身体介護」への切り替えを進める事業所が増えることも予想されます。
――そうなると、さまざまな援助を必要としている高齢者が困りますよね。
ところで、私の知人の介護士が、「一生懸命勉強して資格をとって介護の仕事をしているのに、最低賃金並みの給与。若い人がバカバカしくなってどんどん辞めている」と嘆いています。
担当者 他産業では賃上げが積極的に行われ、介護関連職員との賃金格差が広がっています。介護業界も処遇改善などの賃上げを進めていますが、人手不足が続く事業所の採用は簡単でないと思います。
国や自治体が本格的支援をしないと、全国に「介護難民」が発生
――具体的には、どんなケースの倒産があるのでしょうか。
担当者 東北地方の訪問介護事業A社は、2023年に設立したものの、人手不足や利用者の低迷などで事業が軌道に乗らず、資金繰りが悪化。事業継続の見通しも立たず、設立からわずか1年余りで事業を停止しました。
甲信エリアの介護事業B社は、職員の離職による人手不足で満足するサービスを提供することが困難となり、9月に破産開始決定を受けました。
――やはり、人手不足のダメージが大きいですね。今後、訪問介護業界が生き残るにはどうしたらよいでしょうか。また、今回の調査で特に指摘しておきたいことがありますか。
担当者 小規模の事業者同士の協働やITなどを使った業務の効率化などで、少ない人数で高付加価値のサービスを提供できる仕組み作りが重要と思います。
それには、サービスの実体や地域性などに合わせた価格設定ができるように国や自治体が間に立った支援と現状把握が不可欠と考えます。
今後、小・零細事業者の淘汰が加速する可能性が高いです。このままでは介護事業者の倒産に歯止めがかからず、全国的に『介護難民』が発生する事態が現実味を帯びています。ぜひとも、国や自治体の本格的な指導・支援を求めたいです。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)