氷上の人気競技を題材にした映画「カーリングの神様」が2024年11月8日から全国で公開される。主演はフィギュア選手だった本田望結、ほかに川口ゆりな、長澤樹などの若手俳優に高島礼子、柄本明、田中麗奈、六角精児らが加わっている。映画の舞台は長野県北佐久郡御代田町。町民百数十人がエキストラで出演した。
微妙な軽井沢への嫉妬と対抗心
小学生時代の仲間がカーリングチームを再結成して地元御代田で開かれる国際大会を盛り上げようと奮戦する。友達関係に悩み、努力する青春スポーツ映画だ。「3回は涙が出る」と本木克英監督が言う。目標は隣町の軽井沢チーム。立派な練習場を持つ強豪だ。そのドラマの底に流れるのが軽井沢に対する対抗心と妬みの心情だ。
カーリング競技は北海道・北見市の「ロコ・ソラーレ」が2018年の韓国・平昌、2022年の中国・北京のオリンピックで活躍して一躍人気となった。五輪の正式競技になったのは1998年長野の冬季五輪。その時の開催地は軽井沢町だった。その3年前の1995年に本州で最古のカーリング場が開設されたのはロケ地の御代田町だ。町民には、カーリングの本家は御代田だとの誇りがある。
段ボール工場廃屋を専用カーリング場に
カーリング場を作りたいと考えた御代田町の人たちが、町内に手ごろな段ボール工場の廃屋を見つけた。断熱材を吹き付け、土台を平行にするために砂を入れ、冷却パイピングを敷き、徹夜の水まき作業をして完成したのが専用リンク「カーリングホールみよた」である。クラブ形式によって運営されている、誇り高い施設である。
軽井沢は自治体としては町だが、日本一の高原リゾート地として周辺では群を抜いたブランド価値を持つ。隣の御代田町や小諸市、佐久市などの住民からは羨ましい存在である。
「軽井沢を語るな!」町長が声明
軽井沢町のほうでは、この有名ブランドを周辺の企業や人が「利用」するのが気に食わない。2021年には町長が記者会見をして軽井沢名称の適切使用を求める声明を出した。町以外の事業者が「軽井沢」の名称を会社名、商品名に使うことを控えるよう企業倫理に訴えた。町の調べで、長野・群馬など近隣6市町村で軽井沢の名称を事業者が少なくとも59社あったと発表している。
御代田町は浅間山のふもとで軽井沢に隣接する避暑地であり、かつて「西軽井沢」と言っていた。町の北には浅間山が大きくそびえ、映画の随所に映っている。ミネベア、シチズンの工場があり、人口は軽井沢よりちょっと少ない。軽井沢へのライバル心がある。
本木監督は、映画の随所に盛り込まれた軽井沢に対する御代田町民の微妙な気持ちが出てくるのがどう受け取られるかを気にしていた。先年、"自虐映画"としてヒットした「翔んで埼玉」の長野版、「翔んで御代田」のような面がある。しかし、それは杞憂だった。
映画公開に先立ち、エキストラなど協力してもらった町の人たちを招いた試写会を開いた。町長、カーリング場の関係者らもその中にいた。その微妙な場面が出るたびに会場からは大きな笑い声が起きたからだ。