転職で年収アップする人が4割、30代の5人に1人が100万円以上の年収アップに成功していることが、就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年10月29日に発表した「転職による年収アップの実態調査」でわかった。
しかし、現実はそう甘くはない。年収の理想と現実には120万円のギャップがあるのだ。
そこで重要なのが転職先との「年収交渉」となる。どう交渉したらよいか。『マイナビ転職』編集長の瀧川さおりさんにコツを聞いた。
30代は転職後の年収アップ平均額が138.7万円
マイナビの調査(2024年7月30日~8月5日)は、直近2年以内に転職した20~50代会社員800人(各年代200人ずつ)が対象。
まず、転職前後の年収の変化を聞くと、「年収アップ」(40.2%)が最も多く、「年収増減なし」(34.9%)、「年収ダウン」(25.1%)と続いた。年収アップの人のうち、「100万円以上」の年収増に成功した人は13.8%。30代でその割合が最も高く、約5人に1人(18.0%)にのぼった【図表1】。
30代は年収アップの平均額も138.7万円と最も高く、転職による年収増を目指しやすいタイミングといえそうだ。
年収アップに成功した理由を聞くと、「スキルや実績、経験が評価された」(21.5%)が最も多く、「年収が上がる仕事にしか転職しないと決めていた」(18.4%)、「規模が大きい企業への転職」(17.4%)と続いた【図表2】。
一方、転職後の年収と理想の年収は? これを聞くと、「理想よりも低い」と答えた人は約6割(58.0%)にのぼった。理想の年収額は平均626万円に対し、実際の平均年収は507万円。理想と現実の差は約120万円となり、現実はそう甘くないことを示す結果となった【図表3】。
さて、転職時に「年収交渉」をした人は約6割(55.9%)で、そのうち年収アップに成功した人は約9割(85.2%)だった【図表4】。年収増を狙うなら年収交渉が欠かせない。その方法を自由回答で聞くと、こんなアドバイスが相次いだ。
「所有資格一覧を記載した職務経歴書と前職の給与明細を提示し、これ以上の給与アップを望んでいることを伝えた」
「相手側の欲する仕事内容に対して目の前で一考。現状と変わらないのであれば考えさせてほしい旨を伝えた」
転職理由は年収だけではない、自分に合った仕事選びも大事な目的
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめた『マイナビ転職』編集長の瀧川さおりさんに話を聞いた。
――調査結果をみると、転職によって年収アップした人が4割ですが、3人に1人が横ばい、4人に1人がダウンです。逆にいうと、6割の人は年収が上がらない、もしくはダウンすることになります。年収アップを転職の目的と考えると、リスクが大きい印象を受けますが。
瀧川さおりさん 直接的に年収が上がった人は4割に留まりますが、横ばい、ダウンに比べて割合としては一番高い結果となりました。また、年収が横ばい(現状維持)の場合も、勤務時間や休日数など諸条件の改善により時間あたりの給与が上がっているケースもあります。
スキルアップ可能な仕事や副業可能な仕事への転職によって、年収アップを段階的に目指しやすい環境の構築に成功しているケースもある。こうしたことを考えますと、年収アップの手段として、転職は有効であると考えられます。
――年収がアップした割合を見ると、20代が一番高いです。次に30代、40代と割合が下がっていきます。この理由は何でしょうか。やはり、若いうちに転職した方が年収アップには有利ということですか。
瀧川さおりさん 転職の目的は、年収だけでなく自分に合った仕事内容、休日や勤務時間など待遇の改善など、人によってさまざまです。20代、30代は年収アップを目的に転職する人が比較的多いですが、40代以降は年収以外の理由を目的に転職している人が多くなっていきます。
また、30代になると、ワーク・ライフバランスや家族との兼ね合いにより、年収以外にも勤務地や休日・残業時間など、妥協できない条件が多くなってくる人も出ます。ですから、20代が有利というより、年収を最優先にして転職先を選んだ人が多かったことに起因すると考えられます。
市場価値の高いスキル・経験を高く売り込もう
――なるほど。しかし、面白いことに年収アップ額では30代が一番高いですね。企業が求める人材は、20代、30代、40代でそれぞれ違い、年収額に反映されるということですか。
瀧川さおりさん 30代の年収が上がりやすい理由は、ある程度業務経験を経て、自身の強みやスキルを把握しやすく、年収アップを目指しやすい転職先を選んでいけるという点。また、20代に比べ自身の実績などをアピールしやすく、交渉ごとの経験値もあがっているため、年収交渉をしやすくなる点があげられます。
また、30代は「規模が大きい企業への転職」が多いのが特徴です。今のスキル、今の実績をより高い報酬で評価してくれる企業を、戦略的に選んでいる傾向もあるのではないでしょうか。
――転職後の年収が「理想より低い」と感じる人が6割もいて、たとえ年収アップをかなえても、理想の額より120万円少ない結果が切ないですね。ギャップが大きい人と小さい人では違いがあるのでしょうか。
瀧川さおりさん 転職先に求めるものはさまざまで、年収以外にも仕事の内容ややりがい、休日や勤務時間など多様な条件のなかから、自分に合っている仕事を選ぶことになります。
年収を最優先して他の条件を妥協したという方は比較的年収のギャップが少ないことが考えられます。しかし、年収以外の条件を優先した方は、比較的年収のギャップが大きいことが考えられます。
また、市場価値の高いスキル・経験が身に付いている方は、比較的高い年収を得やすいです。その一方で、平均年収が低い業種・職種だと、スキルや経験が身に付いていても年収を上げづらい状況があり、理想年収とのギャップに関係してくるかもしれません。
年収交渉では「自身がいかに貢献できるか」具体的にアピール
――年収交渉をした人の約9割が年収アップに成功しています。やはり年収交渉はするべきでしょうか。「扱いにくい人間だ」などと思われて、マイナスになる心配はないでしょうか。
瀧川さおりさん 給与に納得感を得られることは、長く仕事をしていくために重要です。そのために、自ら納得できる環境を獲得していく努力の1つとして、年収交渉をすることは大いに妥当性があります。
交渉の際は自身の実績やスキル、業界・職種の平均年収などを参考に、客観性のある金額を提示することがポイントです。交渉を切り出すタイミング、トークスキルは大切なビジネススキルの1つ。場合によっては、年収交渉を通して、ビジネスパーソンとしての評価を得ることもできます。
もし、年収交渉をした際に企業からネガティブな反応が返ってくる場合は、ご自身の評価と企業からの評価がミスマッチしていることになります。そのような環境ですと、入社後もフラストレーションを感じる可能性が高いので、転職を慎重に考えたほうがいいかもしれません。
――なるほど。年収交渉をする際、一番大事な点は何ですか。
瀧川さおりさん 「自身がいかに転職先で貢献できるか」をアピールすることが重要です。ご自身のスキルを万遍なくアピールするよりも、転職先で特に生かせる業務スキル、業務経験を重点的にアピールするとよいでしょう。
営業であれば契約数、目標達成率、社内でのランキングなど、事務系職種であれば、プロジェクトの経験、コストカットや業務改善の経験などを数字で示せると、説得力が出ます。業務で生かせる資格などがある場合は、それもぜひアピールしたいところです。
未経験の職種や業種への転職の場合は、自身の経験のなかから業界や職種が変わっても求められるコミュニケーション力や交渉力、業務の推進力、自ら課題を見つけ改善していく力など、ポータブルスキルが生きた経験をアピールするとよいでしょう。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
瀧川 さおり(たきがわ・さおり)
新聞社、メーカーの企画部門などを経て、2004年にITサービス、翌年にオーガニック製品の会社設立に携わり、2社の役員を兼務。
マイナビ入社後は大手企業専属チームで中途採用や採用ブランディングなどを支援。2024年より総合転職情報サイト『マイナビ転職』の編集長に就任。マイナビ転職公式YouTubeチャンネルや企業向けオンラインセミナーなどで転職や中途採用市場に関する情報を配信中。