国民民主が自公に迫る「手取り増」 専門家が「生活の助けになるが、年収の壁解消の決め手にはならない」断言する理由

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   自民、公明、国民民主の3党の政策協議で、国民民主の「手取り増」の施策がどこまで実現できるかが焦点になり、「年収の壁」問題が注目を集めている。

   そんななか、働く主婦・主夫層のホンネ調査機関「しゅふJOB総研」(東京都新宿区)が2024年10月12日に発表した「『年収の壁・支援強化パッケージ』開始から一年調査」によると、政府が昨年打ち出した『年収の壁・支援強化パッケージの利用者が14%しかいないことがわかった。

   年収の壁問題はどうなるのか。国民民主の施策で解決するのか。専門家に聞いた。

  • 年収の壁が政局の争点になっている(写真はイメージ)
    年収の壁が政局の争点になっている(写真はイメージ)
  • (図表1)仕事選びの際、目安にしている「年収の壁」(しゅふJOB総研作成)
    (図表1)仕事選びの際、目安にしている「年収の壁」(しゅふJOB総研作成)
  • (図表2)年収の壁・支援強化パッケージを利用しているか(しゅふJOB総研作成)
    (図表2)年収の壁・支援強化パッケージを利用しているか(しゅふJOB総研作成)
  • 年収の壁が政局の争点になっている(写真はイメージ)
  • (図表1)仕事選びの際、目安にしている「年収の壁」(しゅふJOB総研作成)
  • (図表2)年収の壁・支援強化パッケージを利用しているか(しゅふJOB総研作成)

社会保険料の壁は「106万円」と「130万円」

   所得が一定を超えて扶養家族の対象外になるなど、税や社会保険料の負担が生じる主な年収の壁には、次のようなものがある。

   パートタイムやアルバイトに所得税が発生する「103万円」。勤務先が一定条件を満たすと、厚生年金や健康保険に加入し、新たに社会保険料が発生する「106万円」(月収8万8000円)。夫の社会保険の扶養から外れる「130万円」。さらに、配偶者特別控除が減り始める「150万円」などだ。

   このうち、特に手取り収入への影響が大きいとして強く意識されるのが「106万円」と「130万円」の「社会保険料の壁」だ。そこで政府は2023年10月から年収の壁・支援強化パッケージを開始した。主な内容は次の2点だ。

(1)社会保険料が発生する「106万円の壁」には、従業員の収入増や保険料負担を軽減する手当を出す企業従業員1人最大50万円の助成金を出す。
(2)所得税が発生する「130万円の壁」では、一時的に年収が130万円以上になっても、企業が「一時的」との証明を出せば、原則連続2回まで扶養から外れないようにする。

仕事選びの目安にするのは「103万円」が最多

   しゅふJOB総研の調査(2024年9月17日~9月30日)は就労志向があり、同居人がいる主婦・主夫層460人が対象。

   まず、仕事選びの際、目安にしている収入の上限(年収の壁)を聞くと、「103万円」(26.5%)が最も多かった【図表1】。また、政府の年収の壁・支援強化パッケージを利用しているかを聞くと、「利用していない」(85.4%)が8割以上を占めた【図表2】。

   なぜ利用する人が少ないのか。フリーコメントからはさまざまな事情が伝わってくる。

「扶養内で働こうと思うとすごく難しかった。時給が上がる度に休みの調整が必要なり、休めない時期にはタイムカードを切らずに働くこともあった。扶養内だと時給が上がったほうが損した気分になった」(30代:パート/アルバイト)
「上限を設けることで長時間働けなくなるのは、扶養制度があるから仕方ない。かといって、扶養制度がなくなれば働く主婦が増えるかというと、そうでもない。結局のところ、子育てや家事がなくならなければ働けない」(40代:パート/アルバイト)
「いろんな上限がありややこしいので、もっとわかりやすくしてもらいたい」(50代:その他の働き方)
「扶養が外れる条件が緩くなったが、介護や子育てのため扶養内で働きたい人の声は無視するのか、ととても腹立たしい」(30代:今は働いていない)
「上限を撤廃すべき。扶養家族かどうかは関係なく、個人の収入額に応じて税金や社会保険等を課す方が合理的だと思う」(60代:パート/アルバイト)

最大の壁は「年収の壁」ではなく、家事に時間を費やす「時間制約の壁」

   自公と国民民主との間で議論が進められる年収の壁問題も含めて、J-CASTニュースBiz編集部は、研究顧問として同調査を行い、雇用労働問題に詳しいワークスタイル研究家の川上敬太郎さんに話を聞いた。

――今回の調査で、年収の壁・支援パッケージを利用している人がわずか14%、「103万円」や「130万円」の上限制限がある人でさえ25%という低い割合でした。支援パッケージのどこに問題点があるからだと思いますか。

川上敬太郎さん 年収の壁は確かに収入を抑制する要因の1つに違いありませんが、そもそもなぜ年収の壁を気にするのかという背景に目を向ける必要があると思います。

最も大きな壁は年収の壁ではなく、家事や育児、介護といった家周りの仕事に時間を費やさなければならないという「時間制約の壁」です。潜在的には多くの主婦・主夫層がフルタイムで働きたい希望を持っています。しかし、時間制約の壁があるからフルタイムで働けないのです。

まず時間制約の壁があって、その壁の中で働こうと考えると扶養枠を利用するメリットが大きいため、年収の壁を意識することになります。むしろ時間制約の壁があるなかで、収入上限目安があると答えた人の25%が年収の壁・支援強化パッケージを利用しているということは、一定の効果が出ているともいえるように感じます。

――なるほど。年収の壁自体がフルタイムで働くことを妨げる制約ではないわけですね。私個人は、フリーコメントでは、「いろんな上限がありややこしいので、もっとわかりやすくしてほしい」という意見が響きましたが、川上さんはどのコメントに注目しましたか?

川上敬太郎さん 「私は夫の会社の家族手当受給のため103万円以内にしています。そういう人も多いと思う。それがなければとっくに扶養など出ている」というストレートなコメントがとても印象に残りました。

いま国民民主党が公約に掲げている「103万円の壁」対策が注目を集めていますが、配偶者が勤める会社から支給される家族手当は、まさに103万円という年収上限の壁になっていると感じます。

国民民主の施策は生活の助けになるが、年収の壁解消策ではない

――その国民民主の「手取り増」は、パートタイムに所得税が発生する課税ラインを「103万円」から「178万円」に引き上げようというものです。自公と国民民主の合意でこの案が成立したら、年収の壁問題は解決すると思いますか。

川上敬太郎さん 年収の壁は、その金額を超えないように抑えているから「壁」と表現されるのです。しかし、所得税がかかる103万円という給与収入の目安は、「壁」というよりは「底」です。103万円の底を178万円に引き上げれば減税となり、手取りを増やす効果が期待できます。

しかし、だからといって年収の壁を解決する施策にはなりえません。年収の壁は、103万円であれば先ほどのコメントにもあったような家族手当が該当します。それは各社個別の制度なので、それぞれの会社が手当のあり方を見直さない限り解消されません。

また、年収の壁・支援強化パッケージの対象になっている106万円や130万円など働き損が発生する壁は社会保険のほうになります。家族手当も社会保険も、所得税とは全く別の話です。

――しゅふJOB総研では、時給がもっと上がれば年収の壁が解決できるとして「時給相場の壁」を提案しましたね。ほかに解決策はないでしょうか。

川上敬太郎さん 時給相場の壁は、1500円を超えると6割の人が扶養枠を外すと回答した調査結果をもとにお示ししたものです。石破茂首相は2024年10月1日の就任会見で「2020年代までに最低賃金1500円を目指す」と述べているので、もしそれが実現すれば多くの人が年収の壁を気にせず働きやすくなると期待できます。

ただ、そもそも年収の壁は扶養枠という制度の問題です。長年人々の生活の中に組み込まれてきた扶養枠という制度をなくす施策をとらない限り、抜本的な解消とはならないと思います。

働きたくても働けない人や、それぞれの人生設計への配慮を

――では、どうすればいいのでしょうか。

川上敬太郎さん 世の中には働きたくてもさまざまな事情で働けない人がたくさんいます。抜本的な解消に踏み込む場合、それらの方々への配慮が必要であることはもちろん、年金など人生設計に関わる問題でもあることも踏まえて、丁寧に時間をかけて進める必要があると思います。

――今回の調査で、特に強調しておきたいことがありますか。

川上敬太郎さん 国民民主が掲げている103万円の底の引き上げは、物価高で家計が厳しい状況に追い込まれているなか、生活の助けになる施策だと思います。しかし、決して年収の壁を解消する施策ではありません。その点を混同しないよう、注意する必要があると思います。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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