辞めたい社員に代わって退職手続きを請け負う「退職代行サービス」。2017年頃に生まれたサービスとされるが、どのくらい広がっているのか。
就職情報サイトのマイナビ(東京都千代田区)が2024年10月3日に発表した「退職代行サービスに関する調査レポート(企業・個人)」によると、退職者の6人に1人が利用している。
何も退職代行を利用しなくても、個人と企業が納得したうえで気持ちよく辞める方法はないのか。マイナビの研究員宮本祥太さんに話を聞いた。
退職代行の利用者、「営業」がダントツに多い
マイナビの調査は、正社員として働いている20代~50代男女のうち、直近1年間(2023年6月以降)に転職をした800人と、企業の人事担当者1600人が対象。
まず、転職した人に退職代行を利用したか聞くと、16.6%が利用していた。年代別では、20代が18.6%で最も高く、年代が低いほど割合が高い。転職活動時の職種は「営業」が25.9%で最も高く、「クリエイター・エンジニア」が18.8%、「企画・経営・管理・事務」が17.0%と続いた【図表1】。
退職代行サービスを利用した理由は、「退職を引き留められた(引き留められそうだ)」(40.7%)が最も高く、「自分から退職を言い出せる環境でない」(32.4%)、「退職を伝えた後トラブルになりそう」(23.7%)などが続く【図表2】。
退職意向があっても自ら切り出すことが難しかったり、意向を伝えても退職するのが難しかったりする様子がうかがえる。
今後の退職代行の利用意向を聞くと、約2割Cが「利用したい」と答えた。興味深いのは、年代別では30代が25.3%と最も高く、また職種別では「営業」(37.8%)とずば抜けて高かったことだ【図表3】。
企業の人事担当者に今年上半期(2024年1月~6月)に退職代行サービスを利用して退職した人がいたかを聞くと、23.2%の企業が「いた」と回答。過去の退職代行利用者の実績を聞くと、2021年(16.3%)、2022年(19.5%)、2023年(19.9%)と年々増加傾向にある【図表3】。
業種別では「金融・保険・コンサルティング」(31.4%)で最も高く、「IT・通信・インターネット」(29.8%)などが続く。
退職代行の台頭で、「退職しやすい状況」が広がる相乗効果
J‐CASTニュースBiz編集部は、調査をまとめたマイナビのキャリアラボ研究員宮本祥太さんに話を聞いた。
――近年、退職代行が台頭してきた背景は、ズバリ、なんだと思いますか。
宮本祥太さん 直近1年間で利用した人が16.6%という結果が示すように、転職者の約6人に1人が退職の手段として退職代行を利用していることになるので、低いと言えない数字であると考えます。年代別では、20代が18.6%で最も高く、若い人ほど退職代行のニーズが高い傾向も調査結果からうかがえます。
これは、雇用の流動性が高まり、転職する人・転職を希望する人の増加に伴い、退職を考える人が増えていることが前提の要因として考えられます。
そのうえで、退職代行の存在が世間に認知されはじめ、これまでであれば自力で退職することが難しかった人にも「退職しやすい状況」が生まれたこともあり、退職代行の利用が広がっているものと考えます。
――つまり、相乗効果ということでしょうか。しかし、退職代行を利用した理由の上位に「退職を引き留められた」「自分から言い出せる環境にない」などが並びます。こうしたトラブルは昔からあったし、また、労働者には退職する権利もあるはずなのに、なぜ最近こうした問題が浮上するのでしょうか。
宮本祥太さん こうした問題は昔からあったのかもしれませんが、退職代行という企業と求職者の間に立つようなサービスが出てきて、その認知が広がっていることによって、問題が表面化しているのではないでしょうか。
過酷な就労やハラスメントで退職を考える人には、救いになる
――退職代行の利用者と、今後の利用意向に「営業が上位にくる理由は何でしょうか。また、企業側でも利用者に「金融・保険・コンサルティング」「IT・通信・インターネット」業界が目立ちます。
宮本祥太さん 退職代行を利用する目的は、その人が置かれている職場環境や退職理由によるところが大きいため、一概に職種・業種の上位の理由を説明することは難しいです。
そのうえで「営業」の職種に関して言えば、業務が属人化しているケースも多く、担当顧客・担当案件が変わるというリスクを考えると、仕事を辞めにくく、会社側から引き留められやすい職種であることが一つ考えられます。
また「金融・保険・コンサルティング」「IT・通信・インターネット」の業種、「営業」の職種の傾向としては、雇用の流動性が高く、採用ニーズが高い分野です。就業者目線で見ると、そもそも退職する人が多い属性であることに加え、スキルを持っていれば転職先の選択肢も少なくありません。
また、企業目線では、需要が高い分野だからこそ、自社の人材流出による損失は大きく、その分退職の引き留めなども多いことが推察できます。雇用の流動性の高さが退職する人の分母を押し上げ、さらに、企業の雇用ニーズの高さが「退職しにくさ」を生みだしていることが、一つの要因として考えられます。
――なるほど。ところで研究者として、転職業界に退職代行が台頭することは望ましいことだと考えますか。利用するうえでの問題点や課題があるでしょうか。
宮本祥太さん 望ましいか望ましくないかの直接の回答ではありませんが、退職代行を利用した理由をみても、引き留めや伝えづらさが起因する傾向があり、「辞めたくても動けない」ためにサービスに頼る人が多いことが予想されます。
また、過酷な就労やハラスメントが原因で退職を考える人にとっては、直接上司や人事に伝えることが難しい状況も考えられます。このように、ネガティブな環境から抜け出す手段として退職代行の利用は大きな意味があると思います。
退職代行の利用、自身のキャリアに本当に必要か考えよう
――「円満退職」が難しい場合の救いになるわけですね。
宮本祥太さん そうですが、一般的に考えると、多くの企業は自社の従業員から直接退職意向を伝えられず突然退職されることを快くは思わないでしょうし、退職代行を利用して転職してきた人を採用しようとする企業にとっても手放しで全て受け入れられるというものでもないと思います。
それを考えると、退職代行を利用する際には自身のキャリアにとっての本当に必要かどうかを十分に考慮する必要もあると思います。
――退職代行を利用して転職を志す人や、受け止める企業側にアドバイスがありますか。
宮本祥太さん 退職代行の利用率は高まっており、どの企業も利用される側に立つ可能性があります。サービス利用の良し悪しは別にして、目を向けるべきは、利用の背景にある「理由」の部分です。
企業は「どうして退職代行が利用されたのか」に目を向け、それを職場づくりに活かしていく姿勢が大切だと思います。退職代行の利用理由が引き留めや伝えづらさに起因する傾向を踏まえると、利用の背景には、働く人と企業間のコミュニケーションのエラーや不足があることが考えられます。
働く人と企業の双方にとって、より納得したかたちでの退職・離職が実現されるためにも、企業はキャリアや退職に関して意思疎通がしやすい環境・風土をつくり、相互理解につながる機会をつくっていくことが重要でしょう。
退職代行サービスは今後ますます増えるかどうかについては、引き続き調査を通して動向を見守っていきたいと思います。
(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)
【プロフィール】
宮本 祥太(みやもと・しょうた)
マイナビ キャリアリサーチラボ研究員
中途領域など担当。新聞記者を経てマイナビに中途入社。『マイナビ転職』の制作ディレクターとして300社以上の中途採用支援に携わる傍ら、キャリアコンサルタントとして若年層を中心に100名以上の転職相談に対応。
関心のあるテーマは求職者・企業双方の視点から見たジョブマッチング。国家資格キャリアコンサルタント。