人手不足でキャリア採用が増加し、TVCMで「転職エージェント」の言葉がよく聞かれるようになった。しかし「転職エージェント」がどんなサービスなのかよく知らず、転職時にも利用しない人がまだ多いようだ。
転職経験者404人を対象に、インターネットリサーチのNEXERが人材紹介会社でRSG転職ナビを手掛けるRSGと共同で実施した調査によると、転職時に「転職エージェントを利用しなかった」と答えた人は69.2%を占めたという。
利用者の理由「色々面倒な交渉をしてくれるから」
転職エージェントを利用しなかった回答者からは、その理由について、
「当時は転職エージェントがどういうものか知らなかったから」(30代男性)
「(転職エージェント選びは)どこがいいかわからない」(30代女性)
といった回答があった。一方、転職時に「転職エージェントを利用した」と答えた人は全体の20.8%にとどまったが、利用の理由について、
「自分で探すよりも効率よく(転職先を)探せると思ったため」(30代女性)
「業界について最新の情報を知っていて、信頼出来るから」(30代男性)
「求人サイトには載っていない仕事が多くあり、サポート体制も整っているから」(30代女性)
「色々面倒な交渉をしてくれるから」(30代女性)
といった期待やメリットをあげている。
転職エージェントを利用した人に、転職時に何社利用したかを聞いたところ、「1社」が48.8%と半数近くを占め、「2社」が31.0%、「3社以上」は20.2%だった。
また、転職エージェントを利用して「最終的に転職は成功しましたか?」と尋ねたところ、「成功した」と答えた人は69.0%を占めたものの、「成功していない」と答えた人が31.0%いた。転職エージェントを利用しても、必ず転職できるわけではないようだ。
転職エージェントとは、そもそもどんなサービスなのだろうか。都内のハイクラス向けエージェントに勤めるAさんに話を聞いた。
「転職エージェントは、正式名称は人材紹介会社といって、求職者と求人企業のマッチングをするのが仕事です。求職者が希望条件を伝えると、それに合った企業を紹介します。企業やその業界、ポジションの詳しい情報を提供したり、面接のアドバイスやスケジュール調整をしたり、年収などの希望条件を代わりに交渉するなど、まさに"エージェント(代理人)"の役割を果たしてくれる便利なサービスなんです、手前味噌ですけど(笑)」
求職者は基本的に無料でサービスを受けられるが、転職が成立すると求人企業は転職エージェントに成功報酬を支払わなければならない。
成功報酬は、一般的に採用された人材の年収の30%から35%程度だが、マネージャーや経営幹部といった採用難易度が高く、事業貢献が期待される人材の場合、50%や100%の成功報酬が支払われることもあるという。
大手と中堅中小「それぞれのメリットを活かす」
たとえば年収2000万円のポジションに求人を出している企業に、条件に合った人材を紹介し転職が成立したとする。その場合、一般的な成功報酬は600万円から700万円、難易度によっては1000万円から2000万円の報酬を得られるというから驚きだ。
もちろん、この報酬は人材紹介会社に支払われるもので、エージェント個人に支払われる割合は会社によって異なる。
「固定給とインセンティブの組み合わせなど、給与体系は会社によって異なりますが、成功報酬の1割から3割程度がエージェント個人に支払われる会社が多いのではないでしょうか。ただ、私が過去に働いていた会社では5割というところもありました」
これだけ儲かる商売であれば誰もがやりたいところだが、Aさんによると「人材紹介業を行うには厚生労働省の許可が必要で、無認可のサービス提供は禁止されている」とのことだ。
さらに、転職エージェントが求職者を連れてきていきなり企業に紹介しても、門前払いされてしまう。求人企業と契約を交わして募集条件を知らせてもらい、成功報酬の割合などを事前に取り決める必要がある。
Aさんは、転職エージェントを利用する際には「求職者の見えないところで、求人企業から成功報酬を得ている」人材紹介ビジネスの仕組みを理解したうえで、複数のエージェントを利用することを勧める。
「転職エージェントには大きく分けて、求人数は非常に多いけどマッチングが雑な傾向にある大手と、求人数は限られるけれど特定の業界や職種の事情に詳しい中小中堅があります。この2種類を組み合わせることで、それぞれのメリットを活かすことができますので、複数のエージェントから求人の紹介を受けることをおすすめします」
また、エージェントを使っても3割の人が転職に至らなかった理由について、Aさんは「紹介した求職者が早期退職してしまうと、成功報酬の返金を求められる場合がある」と指摘。そのため、無理なマッチングをするくらいなら「いまの悩みを解決するには、いまの会社で頑張った方がいい」などとアドバイスをするからではないか、と推測する。