「中国のシリコンバレー」日本人男児殺害の衝撃 進出企業の対応と悩み 「注意喚起」にとどめるジレンマ

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   2024年9月、中国のシリコンバレーといわれる深セン市で日本人男児が殺害される事件が起こり、現地の日本人社会に衝撃が走っている。

   多くの日本企業が進出、駐在員と家族が滞在しているが、企業はどんな対応をとっているのか。東京商工リサーチが10月11日に発表した「2024年10月『中国の日本人駐在員』に関するアンケート調査」によると、8割以上の企業が「注意喚起」を行ない、なかには家族の帰国を促すところもある。

   今後、日本企業の中国ビジネスはどうなるのか。調査担当者に聞いた。

  • 中国のシリコンバレー、深セン市の街並み
    中国のシリコンバレー、深セン市の街並み
  • (図表)日本人男児殺害を受けた対応(東京商工リサーチ作成)
    (図表)日本人男児殺害を受けた対応(東京商工リサーチ作成)
  • 中国のシリコンバレー、深セン市の街並み
  • (図表)日本人男児殺害を受けた対応(東京商工リサーチ作成)

「駐在者に注意喚起」93社だが、「家族の帰国」3社だけ

   中国では、今年(2024年)6月にも江蘇州の日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われ、日本人親子がけがを負い、止めに入った中国人女性が殺される痛ましい事件も起きている。

   また、日本以外の外国人が殺傷される事件も頻発しており、外務省は「複数人で外出するなど、十分な安全対策をとるよう」注意を呼びかけている。

   東京商工リサーチの調査(10月1日~8日)は、駐在員を滞在させている112社が対象だ。今回の事件を受けた対応を聞いた。

   それによると、「駐在者に注意を喚起した」企業は83.0%(112社中、93社)と8割を超えた。また、数は少ないが、「駐在中の従業員に家族の帰国を促した」(3社)、「新規駐在を停止した」(2社)、「新規駐在の場合、家族帯同を原則禁止した」(1社)といった、より厳しい安全策をとった企業もあった。

   個別回答では、「単身者の駐在のみだから、特に対応していない」や「家族帯同での駐在員がいないため、特別な対応はしていない」など、単身駐在者への対応では注意喚起にとどまる回答が目だった。

   東京商工リサーチでは、

「中国では不動産市況の低迷や債務拡大などに加え、米中対立、台湾有事、反スパイ法の施行などでリスクが顕在化している。そこに、日本人男児殺害事件などが相次ぎ、治安悪化で駐在員の不安も高まっている。
日野自動車は9月末に中国で製造していた商用車などの生産を停止し、中国ビジネスの縮小を公表した。中国の生産拠点を他のアジア諸国に移転する企業も出ている。日本企業の中国ビジネスが岐路に立たされている」

と、分析している。

中国市場の存在が大きく、急に止められないジレンマ

   J‐CASTニュースBiz編集部は、調査を行なった東京商工リサーチ情報部の担当者の話を聞いた。

――中国では、今年6月にも江蘇州でも刃物を持った男に襲われて、日本人親子がけがを負う事件も起きています。今回の調査では、「駐在者に注意喚起」が8割以上の一方、家族を帰国させるといった厳しい対応をとる企業が少ない印象を受けますが、ビジネス上やむをえないのでしょうか。

担当者 経済活動が長期にわたって停滞している日本にとって、中国マーケットの存在は大きな意味があります。そんな中国ビジネスを急に止めることはできず、「注意喚起」にとどめていると思われます。

今回の事件は、政治的な側面が見え隠れするため、ビジネス分野ではまだ安全対策の最優先の面で様子をうかがっているのだろうと思います。ただ、事業規模が大きい企業は、新規駐在の停止や家族の帰国を促すなどの対応をとっており、中国ビジネスへの依存度でも温度差があるかも知れません。

日野に続き、日産、ホンダなど自動車メーカーが相次いで縮小

――中国では不動産不況や米中対立、台湾問題、反スパイ法などのリスクが拡大しています。そこに治安悪化も加わったわけで、日野自動車以外に中国から撤退しようとする企業の動きには、ほかにどんなものがありますか。

担当者 たとえば、日産自動車は今年6月に工場を閉鎖し、ホンダも工場の閉鎖や生産休止を発表するなど、自動車メーカーは相次いで縮小しています。不動産市況の悪化、米中貿易摩擦などで中国国民の消費が落ち込んでいますし、自動車ではEVなどの需要変化が急速に進んでいます。

複層的なサプライチェーンを構築している大手メーカーでは、工場撤退や生産縮小の動きが加速し、協力会社など取引企業の撤退や縮小がさらに進む恐れがあります。

――となると、今後ズバリ、中国から撤退する企業の動きは加速すると思いますか。米大統領選でトランプ氏が当選したら、どうなると分析していますか。

担当者 企業が中国から撤退するかどうかは個別企業の判断ですが、政治や経済の先行きはよほど不透明にならない限り、中国マーケットの魅力は大きく、一部の撤退はあっても大規模な撤退はないと考えます。

ただ、人件費や労働力の観点で言えば、過去のようなメリットは薄まっており、徐々に国内回帰や周辺の東南アジアへの移転が起きてくる可能性はあります。米大統領選については、別途アンケートを実施しておりますので、そちらの公表をお待ち下さい。

――進出企業を中心とした日本と中国の関係の一番の課題は何でしょうか。

担当者 現地駐在員の不安は高まっています。治安の悪化など、生活と生命の安全面で危機が深まると、今後は本格的に駐在員の帰国を促す企業が増えると思います。政治的な側面もありますが、中国政府のしっかりした外国人への安全対策、警備強化が待たれます。

(J‐CASTニュースBiz編集部 福田和郎)

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