石破茂首相は政策面では、自民党総裁選中に言ってきたことをほとんど否定し、石破政権誕生後の2024年10月4日の所信表明を行った。所信表明に載らない以上、その政策が実現される可能性はまずない。
裏金問題を梃子(てこ)に自民党内の旧安倍派切りで勝負に出た。裏金問題を自民党内で仕切ってきたのは森山裕幹事長だ。森山幹事長はさらなる処分はないかのように話してきた。当然のことながら、後出し事後処分は御法度である。ただし、3名の党員資格停止の議員であれば公認なしというのは当然なので、その程度で済ますかとも思われていた。
非公認・比例重複不可の半数程度が落選?
しかし、政治倫理審査会(政倫審)を欠席した議員なども非公認の方針という。確か欠席は自民党方針だったはずで、これは実質的に事後追加処分だろう。さらに、40名以上とされる収支報告書不記載議員(これはほぼ旧安倍派)に比例重複を認めないという。党の処分に従った上であまりに酷い仕打ちであり、このままなら非公認・比例重複不可の半数程度が落選するかもしれない。
今回は、野党を利するだけである。石破政権では、石破首相の発言ブレもあり、政権発足直後の御祝儀もなく、自民党の過半数割れが噂されていたが、今回の措置により、そこにとどまらず、自公で過半数割れまで視野に入ってきている。
総選挙における自民党の議席数は、内閣支持率と自民党支持率を合計した、いわゆる青木率によって、かなり説明出来る。実際、青木率と政権が持つ固有の人気度を組み合わせると、総選挙における自民党議席数は説明可能だ。今回の石破政権では、岸田政権の固有値に、今回の措置による議席減を加味すると、自民党が現有議席から50議席程度の減少になる可能性が高い。公明党も5議席程度の減少になり、自公あわせて衆議院465議席の過半数を割る可能性すらある。そうなると、今の自公の政権枠組みは大きく変化せざるを得ない。
岸田氏が再登板見越して仕掛けた「岸波」政権?
石破政権で逃げた保守自民党支持層は、今回の措置で戻ってこないだろう。結果として、自公で十分な得票が得られず、石破首相に結果責任がブーメランのように刺さるだろう。
石破政権の後を狙うのは、高市早苗氏の他、岸田文雄氏もいる。今回、石破政権誕生の最大の立役者は高市だけはダメと言った岸田氏だ。その意味で、筆者は石破政権を「岸破」政権と呼んでいる。岸田氏の石破首相への支持は短命を見込み、旧安倍派を切った上で次は自分の再登板も織り込んでいたとしか思えない。しかし、これは策に溺れており安定政権にはなり得ない。
++ 高橋洋一プロフィール
高橋洋一(たかはし よういち) 元内閣官房参与、元内閣参事官、現「政策工房」会長 1955年生まれ。80年に大蔵省に入省、2006年からは内閣参事官も務めた。07年、いわゆる「埋蔵金」を指摘し注目された。08年に退官。10年から嘉悦大学教授。20年から内閣官房参与(経済・財政政策担当)。21年に辞職。著書に「さらば財務省!」(講談社)、「国民はこうして騙される」(徳間書店)、「マスコミと官僚の『無知』と『悪意』」(産経新聞出版)など。