野坂昭如さんと、「ボケとツッコミ」
69年、『週刊文春』で野坂昭如さんの連載エッセイ「エロトピア」の挿絵を引き受けたことが転機になった。当時、人気爆発中の野坂さんと、「ボケとツッコミ」のようにイラストで対抗する。作家そのものも俎上に載せ、デフォルメした似顔絵で茶化した。おまけに辛辣な文章まで添える。「挿絵画家」としての領分を超えた試みを、野坂さんは受け入れ、面白がった。「ただただ毎週苦笑するしかないのである」と。
この「エロトピア」で試みた新しい作風が、70年「講談社出版文化賞・さしえ賞」、71年「文藝春秋漫画賞」に輝く。いっきに注目度が高まり、仕事が増えた。夕刊フジで人気作家が100回連載するエッセイのイラスト、テレビのクイズ番組や雑誌での対談などなど。
極めつけが76年からスタートした「ブラック・アングル」だった。ちょうどロッキード事件の年。主役の田中角栄、小佐野賢治、児玉誉志夫の三氏の似顔絵に「仲よき事は美しき哉 実篤」と入れた。武者小路実篤本人の怒っている顔も。タイムリーな「世相戯画」として喝采を浴びる。折々の作品は単行本としてまとめられ、順次刊行された。評論家の飯沢匡氏は解説で、「(日本の漫画史の中で)これほど絵が上手でしかも品格があり、才知に長けた天才的な人は見当たらないのではないかと思わる」(『ブラック・アングル10年ベッスト&オール』朝日新聞社刊)と絶賛した。