リクルートが2024年9月17日に発表した調査結果によると、2023年度のスタートアップへの転職者は、2015年度の3.1倍に増加したという。年代別では、20~39歳の2.1倍に対し、40歳以上のミドル・シニア層が7.1倍と伸びが顕著だった。
調査元の定義によると、スタートアップとは「設立10年未満の非上場企業」で「大企業の関連会社など」を除外して分析している。なお、転職者数の実数は公開されておらず、実際に何人から何人に増えたのかは分からない。
求人数は6.8倍に増加、平均給与水準も伸長
スタートアップの求人数も、2015年度から2023年度の8年間で6.8倍に増加し、転職者数と求人数のギャップが拡大した。企業の需要は高まっているものの、人材がなかなか集まらずに苦労しているようだ。
転職時の提示年収水準は改善されている。2015年には400万円未満と答えた人が67.4%を占めていたが、2023年度には41.5%に減り、400~600万円未満と答えた人が25.0%から40.2%に増えた。600~800万円未満も5.3%から12.0%に増えている。
この背景について、調査元は「スタートアップの資金調達が増加傾向にあること」をあげている。加えて、転職者に占めるミドル・シニア層の割合が増えているのであれば、その影響もあるに違いない。
都内の人材企業でキャリアコンサルタントとして働くAさんは、この調査結果は、自民党総裁選で小泉進次郎氏が言及した政策にも関係があるという。
「小泉氏の主張に含まれていた『整理解雇の4要件を見直す』とは、ようするに大企業のリストラのハードルを下げるということ。いまのスタートアップの中には、AIなどの専門的なコア技術を持っているところも多いので、いい人材さえ獲得できれば成長できる可能性を秘めています。一方で、余剰人員を多く抱える大企業は、成長が鈍く労働生産性も低い。大企業の人材をスタートアップに移動させることで、経済成長や賃上げを実現していこう、というのが真意だったと思います」
そして、増えているミドル・シニア層のスタートアップへの転職メリットとして、「裁量の大きさ、意思決定できる権限の大きさ」をあげる。
「大企業にいると、縦割りの細かな範囲でしか物事を考えられず、何をするにも上長や他部署の判断を仰がなければならない。こういう生活を続けていると、発想自体が貧しくなってしまってキャリアの先がなくなります。もっとこうやればいいのに、というアイデアをどんどん試してみたい人には、スタートアップに転職すると機会が得られることが多いです」
「報酬が減るおそれなど」のリスクは小さくないが
一方、Aさんは、せっかく大企業に入った若手社員が、入社直後にスタートアップへ転職することには慎重になった方がいいという。
「若いうちにしっかりとした教育を受けた方が、長い目で見ると人は伸びます。大企業ならではの教育研修や経験を積める機会は、しっかり活用しておきましょう。でないと転職した時点で、ただの未経験者と同じスタートラインに立つことになってしまいます」
ただし「長くいすぎると、会社の看板を自分の力と勘違いする」ので、ある時点での転職を見据えてスキルや経験を計画的に身につけることはいいことだと勧める。
Aさんが接する範囲では、スタートアップは特に大企業での勤務を経験したミドル層を欲しがっている。彼らにスタートアップは、どのような期待をするのだろうか。
「若手層には、何といってもエネルギッシュな活動量ですが、ミドル層には、経験に基づくスキルの高さと問題解決力、それと判断力、戦略思考です。やはり、場数を踏んできた人でないと分からないものがありますから」
そして周囲でも「すでに一部の企業では、大手企業からの転職が見られる」という。
「長期的な成長を考えるスタートアップでは、会社の基盤を作ってくれるコーポレート部門の要職に、大企業からの転職組を据えています。大きな組織で働いた経験がある人でないと、大きくなる会社に何が必要なのかよく分からないので」
当然ながらスタートアップへの転職は「経営が不安定であるとか、報酬が減るおそれがあるなどのリスクは小さくない」。その一方で、若手、ミドル・シニア共通で大きなチャンスとなることもあるという。
「自分が極めたい仕事をしたい一心でスタートアップに入ったら、数年後に予想外に上場し、ストックオプションで大きな報酬を得たという人もいます。いずれ大企業でリストラされるなら、自分からキャリアアップの機会を外に求め、理想の転職先探しに踏み出してみるのもありだと思います」