「報酬が減るおそれなど」のリスクは小さくないが
一方、Aさんは、せっかく大企業に入った若手社員が、入社直後にスタートアップへ転職することには慎重になった方がいいという。
「若いうちにしっかりとした教育を受けた方が、長い目で見ると人は伸びます。大企業ならではの教育研修や経験を積める機会は、しっかり活用しておきましょう。でないと転職した時点で、ただの未経験者と同じスタートラインに立つことになってしまいます」
ただし「長くいすぎると、会社の看板を自分の力と勘違いする」ので、ある時点での転職を見据えてスキルや経験を計画的に身につけることはいいことだと勧める。
Aさんが接する範囲では、スタートアップは特に大企業での勤務を経験したミドル層を欲しがっている。彼らにスタートアップは、どのような期待をするのだろうか。
「若手層には、何といってもエネルギッシュな活動量ですが、ミドル層には、経験に基づくスキルの高さと問題解決力、それと判断力、戦略思考です。やはり、場数を踏んできた人でないと分からないものがありますから」
そして周囲でも「すでに一部の企業では、大手企業からの転職が見られる」という。
「長期的な成長を考えるスタートアップでは、会社の基盤を作ってくれるコーポレート部門の要職に、大企業からの転職組を据えています。大きな組織で働いた経験がある人でないと、大きくなる会社に何が必要なのかよく分からないので」
当然ながらスタートアップへの転職は「経営が不安定であるとか、報酬が減るおそれがあるなどのリスクは小さくない」。その一方で、若手、ミドル・シニア共通で大きなチャンスとなることもあるという。
「自分が極めたい仕事をしたい一心でスタートアップに入ったら、数年後に予想外に上場し、ストックオプションで大きな報酬を得たという人もいます。いずれ大企業でリストラされるなら、自分からキャリアアップの機会を外に求め、理想の転職先探しに踏み出してみるのもありだと思います」