自民党総裁選で小泉進次郎氏が言及した「解雇規制の緩和」の余波が収まらない。
立憲民主党の野田佳彦元首相は「世襲議員がお気楽に物を言うな」と批判。島根県の丸山達也知事も「親子2代で雇用を非正規化しようとしている」と指摘していた。
Xでは氷河期世代を中心に、進次郎氏の父・小泉純一郎政権時代に製造派遣の解禁などが行われたことを厳しく批判する声は根強い。しかし、現役派遣社員からは「派遣社員を巡る環境は20年前と変わった」「そろそろ考え方をアップデートして」という声もあがる。
「今後も派遣社員」が「正社員になりたい」を上回る
派遣社員はみんな正社員になりたがっている――。その思い込みはもう古いのかもしれない。マイナビは2024年9月20日、派遣社員として勤務する20~59歳の男女を対象に実施した「派遣社員の意識・就労実態調査(2024年版)」の結果を公表した。
「今後も派遣社員として働きたい」と答えた人は48.2%と半数近くにのぼり、「今後は正社員として働きたい」の26.6%を大きく上回っている。
「今後も派遣社員」と答えた人は、調査を開始した2019年版の37.0%から、コロナ禍で実施した2021年版では50.1%に上昇。2023年版では44.4%に落ち着いたが、今回は再び上昇している。
派遣社員を継続意向の人に、正社員勤務との違いを聞いたところ、「時間的なゆとりがある」が61.2%を占め、「飲み会の誘いなどを断りやすく人間関係で悩まない」が59.4%、「働き方に多様性がある」が57.8%と続いている。
30代女性の現役派遣社員Aさんは、都内企業の人事部に正社員として勤めていたが、結婚を機に会社を辞めて派遣社員になった。いまは週に2日ずつ、2社の人事部に派遣されて働いているが、ほぼリモートワークで通勤はしていない。
「最近は人手不足とコストカットで人事部に正社員を置くのを諦めている中小企業が結構あって、幅広い人事労務の経験がある派遣社員の時給はかなり高いんです。特に中小企業はデジタルスキルの高い人が採れないので、派遣先の業務のDXも一緒にやっていて、歓迎されています」
近年、中小企業向けのSaaSやアウトソーシングのサービスが新しく出ているが、中小企業の中高年男性社員は、どれがいいのか選べないし使い方も分からない。Aさんは派遣先の状況に応じてツールを選び、自分がやりやすい仕組みを作りながら高給を得ているというわけだ。
「時給に満足している」派遣社員が4割超
派遣労働者を巡る環境変化は、厚生労働省の調査にも現れている。「派遣労働者実態調査結果」の2008年と2022年を比較すると、時給1500円以上の人の割合は20.8%から39.5%へと、ほぼ2倍も増えている。
時給2000円以上に絞っても、5.3%から13.1%へと大幅増に。時間給への評価も「満足している」とした人の割合が2008年には27.7%だったのに対し、2022年には41.1%に増えている。「ハケンかわいそう」とも言えない状況だ。
2022年の新規調査項目である「派遣労働者として働いている理由」では、「自分の都合のよい時間に働きたいから」が30.8%で最も多く、「正規の職員・従業員の仕事がないから」の30.4%を上回っている。
男性に絞ると「正規の職員・従業員の仕事がないから」が31.0%とトップになるが、2位は「専門的な技能等をいかせるから」の23.3%、3位が「自分の都合のよい時間に働きたいから」の23.0%が続いている。
Aさんは「派遣社員が正社員の代わりに雇用の調整弁になっている側面はある」と認めつつ、「私たちはそれを逆手にとって働いているところもあるんじゃないですか」と明かす。
「正社員じゃないからこそ、会社の言いなりにならず、専門性を軸に自分のキャリアを主体的に形成していけるし、柔軟な働き方も得られます。異なる職場を経験することで、どこの会社でも使えるスキルを磨くことができますし、飽きれば別の会社で働けばいいので退屈もしません」
特に現在は、人事部門のDXや業務改善を課題とする会社が多く、Aさんのような人の引き合いは多い。仕事に対する責任範囲も明確で、雑用係のように使われることもなく、プライベートとの切り分けもしやすい。
派遣会社もさまざまな手厚いサポートをしてくれるという。Aさんは「氷河期世代の中には、派遣切りに遭ったりして辛い思いをされた方もいるのかもしれません。しかし、人手不足やデジタル化の中で時代は変わっているので、働き方のひとつとして認めていただき、あんまり派遣会社や派遣社員を悪者にする認識を新たにした方がいいのかなと」と付け加えた。